第7話
あれから数日が経った夜の事。感謝祭は今も続いていて、街の賑わいは絶頂に達している。
そんな中、金などの装飾をあしらった黒マントに黒いスポブラという男勝りながら、ひざ丈の一段だけフリルをあしらった赤いスカートの少女が、後ろの黒髪の青年を連れまわしながら、元気に街を散策していた。
「なんだよだらしねぇぞ燈!それぐらい担いで見せろ!」
「ブレッドが元気すぎるんだよ!まったく……。」
燈は、大の男が三人は詰めて歩けそうなリュックサックに、荷物をパンパンに詰め込んで歩かされていた。旅の支度という事で、異常な気もする荷物をこれでもかと詰め込まれているのだ。
「こんなにいらないだろ。次の街に着いたらまた買い足せばいいじゃないか。」
まるで生まれたての小鹿のように足を震わせながら文句を垂れると、振り返ってきたブレッドに額を小突かれた。
「何言ってんだモヤシ野郎!鍛えるために決まってんだろ!そ・れ・に!」
機嫌のいいブレッドは、ジャラジャラと音を立てるパンパンに膨れ上がった革袋を見せつけて、にんまりとする。
「エルーナからこんだけせしめてやったんだ!日ごろの我慢をぶちまけたって罰は当たらないだろ?」
風の幽霊を倒した報酬は、ざっと20万エルクス金貨。ブレッドが言うにはこれで3年は遊んで暮らせるらしい。
あれだけ炎をバラまいたというのに、屋敷の中の物は一つも焼けていなかった。
「ブレッド……せっかくエルーナが報酬に色を付けてくれたんだから、大事に使わせてもらおうぜ。」
「ふん!どうせあたしは金遣いの荒い小悪党だよ!嫌ならエルーナのとこにでも行きな!めんたま飛び出る額で売っぱらってやる!」
ブレッドの拗ねた態度に、燈は深い溜め息を吐いた。というのもこの話になるとブレッドは不機嫌で、その理由はエルーナが、別れ際に死ぬほど燈を勧誘したからだった。断り切れない燈をブレッドが無理やり引っ張ってくれたのだが、ブレッドはそんな燈の態度が不満で、ずっとこうなのだ。
「さぁさぁ買うぞ!銃も新調して、ポーションも蓄えて、全部整ったら腹ごしらえして出発だ!」
「ブレッド……あんまり調子に乗ると、本当にエルーナのとこに行くぞ?」
あんまり自由な態度に、燈が怒り気味に冗談で脅した。するとブレッドの肩がびくんと震え、弾んでいた足取りが硬直する。
「本当に……行っちゃうのか?」
「え?あ、あぁ。ブレッドが大人しくしないなら、な。」
燈がそう切り返すと、ブレッドはまた振り返って、燈に向かってまっすぐ歩いていく。その足取りは早く、燈の元まで辿り着くと、突然にその体を抱きしめた。
「うわっ!?おいブレッド!?」
結構な力を籠めて抱きしめられ、燈は突然の出来事に慌ててしまう。
「……お前、見ただろ。」
「へ?見たって何を?」
「私の生乳、見ただろ。」
「へっ!?い、いやあれは事故で!」
風の幽霊をブレッドから追い出すとき、炎の剣がブレッドのスポブラを真っ二つにして、ブレッドの少し豊かな山をもった肌が曝け出されてしまったのだ。
「……責任取れ。」
「……は?」
「責任取れって言ったんだこの変態が!」
ブレッドに突き飛ばされ、大きく遠心力のついた右足が燈の鳩尾に直撃する。
「ぐえっ!!」
衝撃の大きさに、燈はその場に倒れ込んでしまった。街行く人が見守る中、倒れ込んだ燈をお置き去りにして、ブレッドはまた賑やかな街中を歩きだす。
「まったく!次変な気を起こしたらぶん殴るからな!」
「いや……蹴りの方がきついだろ……。」
機嫌の悪いブレッドの、ひらひらと揺れるフリルを見上げながら、痛みに悶える燈はそう皮肉った。
「……お前は、わたしのだからな?」
ブレッドは街の喧騒に隠すように、燈の顔を見つめられない真っ赤な耳たぶをして、小さな小さな声で心の内を囁いた。
一向にうずくまったままの燈に、少しだけ悪気を感じたブレッドが立ち止まり、振り返って手を差し出す。
「ほ~ら、楽しもうぜ。祭り。」
その時、燈の目に輝いたのは、街の木漏れ日と丁度のタイミングで打ち上げられた祝いの花火に、夜風に揺らされた金髪のポニーテールと、色気と気品を感じさせる穏やかな微笑みを見せるブレッドの姿。
普段の乱暴ぶりからは想像もできない、その景色の美しさに目を奪われて、心臓が高鳴るのを感じながらブレッドの手をとって立ち上がる。
ここにある
【企画】GHOST~キミヲクラウ~ 喘息患者 @zensoku01
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