第18話 鈴木くん登場!

「えぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!! 鳥って……鳥だけども……」



 自分でも何を言っているか分からないや。だって、潜入調査のプロで探偵の、鈴木くんって名前の鳥って……

 部屋の入口に立つ鈴木くんは、ピョンピョンテペテペと部屋に入り、お尻を振りながら静かにドアを閉めた。

 アルは鈴木くんの頭にかけ上がり得意気に飛び跳ねる。けどすぐに足を踏みはずして鈴木くんからコロコロと滑り落ちた。ひっくり返ったアルに顔をよせる鈴木くん。



「師匠、この方がナオセンパイですか? はじめまして。ボク、鈴木2号ジュニアって言います。趣味は将棋とスポーツ全般。最近は格闘技にも興味がありますから」



 鈴木くんは少し照れくさそうに羽をパタパタと動かした。まぁ、なんてお手本のような自己紹介だろう?

 ペンギンなのに……


 黒い顔に赤くて丸い目と赤茶色っぽいクチバシ。りりしい黄色い眉毛と、黒と黄色のツンツンヘアー。テペテペと歩いてピョンと大きく飛び跳ね、アタシの前のガラステーブルに飛び乗る。



「わぁ、スゴイ! ペンギンってこんなコトできるの?」



 ペンギンって、もっと赤ちゃんみたいなヨチヨチ歩きかと思ってた。カーペットからガラステーブルの上まで三十センチはあるし、鈴木くんの身長、ガラステーブルよりちょっと高いくらいなのに。



「ボク、イワトビペンギンですから。それに、トレーニングしてますから!」



 ガラステーブルの上で羽を左右に広げ、斜め上に顔を向けてポーズをキメる鈴木くん。

もう、ペンギンがしゃべってるコトも普通に思えるアタシって……

 ちょっと離れてみれば、置物にしか見えない。だって、そうだよね? ペンギンが部屋にいるなんて考えられないし。


 何度も言うけど『町でスカウト』された『潜入調査のプロ』の『探偵』で、『鈴木2号ジュニア』って名前の『ペンギン』。『将棋とスポーツが趣味』な上に『格闘技にも興味』があって、アタシのコト『ナオセンパイ』って呼ぶんだよ?

 ツッコミどころしか見つからないよ。



「アタシ……センパイなの?」



 アタシ、長野に転校してきて二か月で、ペンギンのコウハイができちゃった。

 ううっ……そんなコト誰にも言えない。



「師匠から弟子がいるって聞いてましたから。ボク、一番シタッパですから!」



 羽を大きく広げて首を前に出し、赤茶色のクチバシをクワッと開ける鈴木くん。

 師匠ってアルのコトでしょ? じゃぁ、アタシがアルの弟子? 何の?

 ダメだ。聞いたそばから、聞きたいコトが増えてくじゃない。最初から最後まで片っ端から聞きたいけど、きっとお日様昇っても質問が終わらないんじゃないかな? だから、せめてあと一つだけ……



「ねぇ、鈴木くん。アルは町でスカウトしてきたって言ってたけどホント? 町にペンギンっているモンなの?」



 だってそうでしょ? ペンギンを飼っている人っているのかな? どこから来たのか分からないけど、ペンギンが歩いてウチまで来たって事だよね? たぶん玄関から入って……お父さんまだ帰ってきてないからカギ開いてたのかな? 階段上って……



「ナオ、オマエはワタシを信じてないのか?鈴木くんはなぁ……ムグッ」



 ドアの前からチョロロッとかけてきたアルは、アタシの体をよじ登って、ガラステーブルの上の鈴木くんの前に立った。そのアルの口をオールのような黒い羽でふさぐ鈴木くん。ツンツンヘアーの頭をググッとこっちへ向けて倒し、フルフルと左右に首を振った。



「ナオセンパイ、それは聞きっこなしでお願いしますから。ボクは探偵なんで、素性がバレると何かと不便ですから」



 えぇっ、そういうモン? 素性がバレないと思ってるのかな? だって町にペンギンがいたら目立つじゃない?

 アタシはポカンと口を開けて鈴木くんを見た。鈴木くんはアタシに黒い背中を向けて、広げた羽を小刻みにパタパタパタパタと動かした。



「じゃぁ、もう一つだけいい? 何で鈴木2号ジュニアって言うの?」



 アタシはガラステーブルにほおづえをついて、鈴木くんを見上げた。



「オレっちは代々松平家の守り神として由緒正しき名前を……」



 トーエイがパジャマの袖口からチョコンと顔を出す。

 いや、今トーエイの名前のコトは聞いてないから。


 キラン!!


 鈴木くんの赤い目があやしく光った。トーエイがパジャマの袖口で石のようにカチコチに固まる。



「ボクの名前のコトを話すと長くなりますけど……ボクのお父さんが……鈴木2号って……名前をもらいまして……」



 鈴木くんはジィ~~ッとトーエイを見つめながら、うわの空でクチバシだけを動かした。



「鈴木2号って名前は……飼育員の……鈴木さんからもらった……名前で……」

「えっ!? 動物園から逃げてきたの!?」



 ハッと大きくクチバシを開く鈴木くん。鈴木くんの足元で、アルも胸を押さえて小さく飛び上がった。トーエイはそのすきに、パジャマの袖口にササッと潜り込む。



「ナオ、何で分かったんだ!?」「ナオセンパイ、何で分かったんですか!?」



 ガラステーブルの上で、アルと鈴木くんが顔を見合わせて、大きく首を横にかたむけた。いや、分かるでしょ、普通。鈴木くん、アナタ探偵なのにそれでいいの?



「ナオ様、さてはコイツらアホちんですね」



 アタシのパジャマに隠れたまま、手首のあたりでモゾモゾと動くトーエイ。うん、アタシもそう思う。そのアホちんに勉強教わってるのはアタシなんだけど……



「トカゲのブンザイでワタシに向かってアホちんとはなんだ? アホちんとは? 隠れていないでワタシの目の前で言ってみろ!」



 アルは倒れるくらいふんぞり返って、アタシのパジャマの袖口を見上げながら、ヒクヒクと細かいヒゲをを動かした。トーエイの苦手な鈴木くんを後ろに従えて、スゴくエラそうに胸を張る。

 鈴木くんは左右の羽を後ろにそらせて、両手でほおづえをついているアタシの手にヌゥ~ッと顔をよせる。その勢いで、後ろに流れる長い黄色の髪がユラッと揺れた。



「はじめまして、トカゲセンパイ。師匠から話を聞いて、どうしてもお会いしたかったんですよ。ボクのクチバシの上で、いや何でしたらクチバシの中でお話ししませんか?」



 パジャマの袖口に隠れたトーエイがブルルッと震える。アタシはビックリしてサッと手を後ろに回した。


 食べる気満々じゃない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る