第10話 悪の組織?
「アルもトーエイも何で黙って学校までついてきたの? ビックリしたじゃない。言ってくれれば……」
「連れてきたか?」
アルがフードからアタシの頭によじ登る。アタシはゆっくりゆっくり廊下を歩きながら、口をモゴモゴと動かして目だけを上に向けた。
「えっ、や、連れてこないけど……」
アタシはバツが悪く、モゴモゴと口を動かした。
だって……普通、学校にハムスターやヤモリを連れてくる人いる? バレたら怒られるに決まってるじゃない。
「だから言わなかったんだ、このうすらアホちんが。あんな簡単な計算式も分からずに、ワタシと共に世界征服できると思っているのか?」
勝手だよ……このハムスター、勝手すぎる。
勉強は苦手だけど、『うすらアホちん』って、人間がハムスターに言われるコト?そりゃぁ、ハムスターに答えを教えてもらったのはアタシだけど。
それに、アタシはまだ一言も世界征服を手伝うなんて言ってないのに。
「やいやいやい……この大福ネズミ! ナオ様に向かって『うすらアホちん』とは失礼千万! オツムが少しくらい足りなくったって、それはナオ様のご愛嬌ってヤツで……」
「トーエイ! アナタの言い方も、アタシを相当バカにしてるよ?」
右手ににぎったハンカチからはい出して、肩にチョコンと乗るトーエイ。アタシが少し怒ってみせると、スゴく申しワケなさそうに小さな頭をペコペコとタテに振った。
「はぁ~……」
何かため息が出ちゃう。
何でアタシは肩にヤモリ、頭にハムスター乗せて歩いているの?
クラスのみんなにムシされてるから、学校では大人しくひっそりとしていようって思っていたのに。この二人……いや、二匹のせいで、もっとみんなから変な目で見られちゃうよ。
「だいたい、学校に何しに来たのよ?」
廊下の真ん中の階段をおりながら、アタシは右肩のトーエイを見た。トーエイは口元を何回かなでた後、長い舌でペロッと両目を順番になめた。
「ナオ様が心配で……あっ、いや、世界征服するのに、何かヒントがないかと」
「ふんっ! トカゲのクセにナマイキな……そもそも、世界を征服するのはこのワタシだ!」
ふと階段の踊り場のカベにあるカガミを見る。
アルはアタシの頭の上で、小さな両手で髪の毛をつかんで、ふんぞり返っていた。何かちょっとヘコむ。だって、アルに操縦されているみたいなんだもん。
「何だと、この大福! キサマごときが世界征服できるなら、ナオ様は神だ! 全宇宙の神だ! それに、オレっちはトカゲじゃない! トカゲよりもスペックはずっと上だ!」
トーエイは大きく口を開けて『キーッ』という音を立て、アタシの頭の後ろに飛びつく。
階段をおりるたびに、ポヨンポヨンと小さく跳ねていたアルは、近づいたトーエイにビックリして、アタシの頭の上から転がった。
「わぁ~、落ち……落ちる……」
転がり落ちるギリギリでアタシの前髪にぶら下がる。小さな両手で必死に前髪の束をつかんで、プラプラクルクル揺れていた。
ちょっとぉ~、痛いんですけど。
「もうっ! 人の頭でケンカしないで!」
アタシはアルをつかまえて左肩に乗せた。アルは小さな両手で胸を押さえてハッ、ハッ、ハッと短く息を切らした。
「トーエイはこっち! アルはアナタが怖いんだから、あまりイジメちゃダメだよ」
アタシは右肩を指さした。トーエイは頭の後ろから、素直に右肩に飛び移った。
「ばっ、怖くなと言っただろ! 少しだけ……ほんの少しだけ、気持ち悪いだけだ」
アルは腕を組むような形に両手を前に出して、ソッポを向く。
アタシたちは昇降口の前を横切って、職員室の前を通り抜けた。そして、保健室の引き戸の前に立った。
アルはもう一度、パーカーのフードの中にもぐり込み、トーエイもペタペタとアタシの体の上を歩き回って、お腹のポケットに入った。
「ねぇ……アルは何で世界征服しようと思ったの? ホントは悪の組織?」
誰だって不思議に思うよね?
世界征服だよ?
それも、ハムスターがだよ?
弱っちくない?
トラとかライオンだってそんなコト考えないと思うの。
お腹のポケットから顔を出したトーエイが、アタシの顔を見上げてクワッと大きく口を開けた。何かゴソゴソとフードの中で動き回っていたアルは、ピタッとその動きを止めてアタシの後ろ髪を引っぱった。フードから顔を出したのかな?
「ナオ……やっぱりオマエはアホちんだな。こんなにキュートな悪の組織があるか? 世界の平和のために、ワタシが世界を征服する必要がある……ってだけの話だ。まぁ、この話は長くなるから、家に帰ってから話してやろう」
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