第8話 キモ試し?

 教室の奥、窓ぎわの後ろの席に、アタシと同じ一人ぼっちの子がもう一人いる。



 奥野茂おくのしげるクン。



 茂クンは生まれも育ちもこっちらしいけど、クラスのみんなと話をしているトコなんか見たコトがない。いつも一人で教室の後ろにいる。別にらんぼう者にも見えないし、何で一人ぼっちなんだろう?

 そう言えば、茂クンの声、聞いたコトないかも……


 あっ、声を聞かなかったと言えば、アタシが朝起きた時に、アルは段ボールの中にいなかった。青いロングパーカーに着替えて、朝ご飯を食べて、学校に行く時になっても結局、姿を見せなかったし……



 もしかして、昨日のは夢?



 自分の席に戻って、お母さんに買ってもらった本を開く。読みかけのページに、本といっしょにもらった、和紙でできたモミジの葉っぱの形をした栞がはさんであった。アタシの宝モノ。スゴくキレイな赤色なの。



「あっ、おはよう、ナオちゃん。もうじきキモ試しだね」



 元気いっぱいの明るい声。

 野々山泉ののやまいずみチャン。

 頭もよくて、運動も男子に負けないくらいスゴくて、なのに全然キツくないゆるふわなカワイイ女の子。みんなの人気者で学級委員長。だから、一人ぼっちのアタシや茂クンに自分から話しかけても、誰も泉チャンには文句は言わない。



「おはよう、泉チャン。前から聞きたかったんだけど、キモ試しってどんなコトするの?」



 野並小学校の六月の行事なんだって。毎年、先生引率で夜の学校内でキモ試しをするみたい。

 けど、キモ試しって『夏』ってイメージじゃない?

 何もこんな梅雨時にやらなくても……ねぇ?



「二学年づつ別の日にやるのよ。全校でやったら騒がしくてキモ試しにならないからね。下駄箱のトコに集合して、クジで決めた二人一組でスタート」



 泉チャンはニコニコしながら、ニコニコできないアタシの顔を見る。

 アタシ、動物とか花とか、本とかは好きだけど、生きていないモノと虫は大キライなのよね。



「たった二人で真っ暗な校舎を歩くの? アタシ、怖いのイヤだなぁ」



 仲のいいクラスメイトがいないから、二人一組でって言われても……

 二人一組のキモ試しって、アタシからすれば一人のキモ試しなんだよね。

 夜の校舎で置いてけぼりにされて、一人ぼっちになったら……アタシどうなっちゃうの?



「大丈夫だって。急に『ワッ』って、おどろかしたりしないから。前にそれをやって、生徒が転んでケガしたコトがあったの。だから、地味に怖いだけだよ」



 横に流れた髪を耳にかけて、スゴく楽しそうに話す泉チャン。今、アタシの眉毛の間は、きっと深い谷間のようなシワがよっていると思う。



「一人じゃなければ、その地味な怖さも笑い話になるって」



 泉チャンはアタシの肩をポンと叩いて、軽くウインクした。アタシは小さいため息をついて、コクッと首をタテに振るコトしかできなかった。

 泉チャンは『フフッ』と小さく笑って、クルッと体の向きを変えて手を振る。泉チャンの青いフレアのスカートが、カサのようにフワッと広がった。



「じゃぁ、また後でね。その栞、カワイイね」



 先生の机の前、さくらチャンの席近くの自分の机にかけていく泉チャン。

 泉チャンに話しかけてもらえるのはウレシイ。ただ、泉チャンと話をしていると…ホラ……周りのみんながスゴくイヤな顔でアタシを見るんだよね。

 この中の誰かと一緒に、暗い校舎を回るのかぁ……



 あぁ~……この学校に転校してきて初めてのイベントが、何でよりによってキモ試しなんだろう?



 イヤだなぁ~……

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