††† 六月十五日 晴れ時々曇り †††

第6話 トーエイの覚書 六月十五日

 ナオ様の伝説は今日、始まる。



 オレっちがこの家に生まれたのは七年前。ナオ様三才の頃だ。


 ナオ様のお父上の実家というコトで、幼きナオ様も、よくこの家に遊びに来ていた。ようち園に入ったという話を聞いてからは、年に数回しかこの家に遊びに来てもらえなかったけどな……


 しかし、この四月にナオ様ご家族がこの家に引っ越してきた。

 オレっちどんなに嬉しかったか。嬉しくて嬉しくて、いつもより早く冬眠からめざめちまったくらい。

 おまけに昨夜は、ついにナオ様と話すコトができるなんて……



 なんてすばらしい日だ!!



 白い大福みたいなオマケもいっしょにいたけどな。

 オレっちに恐れをなした大福に言い聞かせてたよ、ナオ様。



「カワイイじゃない…」



 カワイイってよ、オレっち。

 ナオ様は昔から心の優しい女の子でしたから。


 昔、ナオ様に助けてもらったんだよね、オレっち。

 ナオ様が小学校に上がる前くらいかな? 庭でヘビににらまれたヤモリさ。

 こんなにも早く、オレっちの世界が終わるのかと覚悟したね。その恐ろしいヘビから救ってくれたのがナオ様。



 もう、ホント天使!!



「カワイイの食べちゃダメよ~」



 そう言いながら、ナオ様はヘビのシッポをムンズとつかみ、ブンブン振り回して砲丸投げのように投げ飛ばした。カワイクて勇ましくて、そう、まるでジャンヌ・ダルク。



 ナオ様、一生ついて行きます!!



 けど、こっちに引っ越してきてからずっと、ナオ様元気ないんだよね。いつも同じ時間に帰ってきて、その後、どこにも出かける気配もない。オレっちヤモリだからテレビで見たコトしか知らないけど、学校ってアレだろ? 友だちと走り回ったりするトコじゃないの?

 ナオ様、学校で何かあったのかな? オレっち、心配。


 ってコトで、まずは学校までついて行こうと思う。まぁ、目的はともかく、オレっちヤモリはあまり遠くまで出かけないから、かなりワクワクドキドキ。

 ナオ様は学校で、どんな勉強をしているんだろう?


 ナオ様の世界征服に向けての第一歩。

 あんな大福ごときに世界を征服されてたまるかってぇの!

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