第5話 ナオの日記 六月十四日

 今日、学校の帰りに道で小さいハムスターを見つけた。

 何かアタシのコトを電柱のかげからジーッと見てるし……



「どうしたの? まいご?」



 体をカチコチにした、白くて小さいハムスターに声をかけちゃった。

 だって、スゴくかわいかったんだもん。こんなペットがいたら毎日楽しいだろうなって思ったから。



「まいごではないが、話がある。家まで案内してもらおう」



 ビックリして尻もちついちゃった。

 だって、ハムスターが急にしゃべるんだよ? それも低い声で。

 アタシはちょっと怖くなって、急いで家に帰った。

 家に入ってクツをぬごうとしたら、そこにさっきのハムスターがいて、またビックリ。アタシのあとをついて来たんだと思う。

 かわいいのに何かエラそうなハムスター。



「まぁ、上がって話そう」



 そんなコト言われても……ここ、アタシの家なんだけどな。

 お母さんが病気で、空気のキレイなトコロでなおした方がいいからって、春休みにお父さんの実家に引っこしてきた。

 大好きなおじいちゃんとおばあちゃんといっしょに住むんだ。

 お父さんはいつも仕事でおそいけど、二人がいればさびしくないよ。学校が休みの日は病院のお母さんにも会いに行けるしね。


 何か、そんな何でもない話を自分の部屋でハムスターとしてた。

 いっぱい、いっぱい話していたら、怖いって言うより、やっぱりかわいいって気持ちの方が強くなってきちゃった。アタシって変かな?



「キミはどこから来たの? 逃げて来たの?」



 だって、道でハムスターに会ったコトないから、どこかの家からにげて来たって思うじゃない? かわいがっているペットがいなくなって、かなしい思いをしている人がいるかもしれないし。



「ワタシの名はアル・ロマノフ。ロシアの方から、はるばるこの町にやって来たロボロフスキーハムスターだ。言っておくが、ワタシはペットだったコトは生まれてこの方一度もないぞ。逃げてきたとは失敬なヤツだ!」



 ハムスターが自分のコト『ワタシ』って、笑っちゃう。アタシでも『アタシ』なのに。かわいいんだけど、ちょっと大人の人と話しているようなしゃべり方をするよ、アルは。

 それにスゴイと思わない? 自然って言うの? あっ、野生か。

 ロシアの方では野生のハムスターがいるんだよ? 日本はいないよね?


 野生のヤモリはいるけど……


 いたんだよっ! 引っ越してきたこの家にもヤモリが。

 昔からこの家に住んでいる井森十影いもりとーえいってヤモリなんだけど……やっぱり、アルみたいにしゃべるの。



 ホント、今日はいったいどんな日なんだろう?

 ビックリしてばっかりで、疲れちゃった。



 アルは世界セイフクのために『青いオーラ』を探してこの町に来たって言うし、トーエイは『世界セイフクするのはナオ様だ』って言うし。

 もう、ぜんぜん意味が分かんない。

 だって、世界セイフクって悪のソシキとかが、『ヘッヘッヘッ』て笑いながらたくらむモノじゃないの?


 アルって悪のソシキ?

 あんなにカワイイのに?


 それに、世界セイフクするのに何で大きな町じゃないのかな? 日本だったら、まず東京とか大阪とか名古屋とかじゃない?

 何で長野のこの町なの? 引っ越してきたばかりのアタシが知らないだけで、何かスゴイ場所があるとか? 明日おじいちゃんかおばあちゃんに聞いてみよう。



「明日から世界セイフクを始めるから今日はゆっくり休めよ」



 アルはエラそうに鼻を鳴らすと、ちぎったしんぶん紙がいっぱい入った、小さな段ボール箱に入って眠っちゃった。明日、カゴを買ってあげようっと。はなし飼いしてて、おじいちゃんやおばあちゃんに見つかったらビックリしちゃうから。



「ナオさま、明日からオレっちと世界のテッペンめざしましょう!」



 アルが段ボールに入ったすぐあとに、トーエイも窓のすき間から外へ出て行っちゃった。

 どっちにしても、アタシは世界セイフクを目指さなきゃいけないのね。

 アタシ、頭よくないし、運動もできないし、友だちもいないんだけど……それでも世界セイフクってできたりするの?

だいたい、世界セイフクって何するの?



「わはははは! ワタシがこの世界をセイフクするのだ!」



 とか、みんなの前で言わなきゃいけないのかな? ヤダ、はずかしい…

 どうなるんだろ、明日から…

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