第4話 世界征服だ!!

 ん? ハムスターがしゃべるんだから、ヤモリがしゃべっても……


 よくない、よくない。


 ヤモリの声が聞こえるのも、アタシの青いオーラの力?

 床に転がったアルを見おろして、甲高い声を上げるヤモリ…アレ? イモリなの?



「あの……ちょっといい? あなたヤモリ……だよね?」



 首を回して肩のヤモリを見おろす。ヤモリはアタシと目を合わせ、コクコクとうなずくと、左右の大きな目玉をタテに細めた。



「あっ、これはこれは大変失礼いたしました、ナオ様。オレっちのコト、覚えていらっしゃらないかもしれませんが、ずっと……ナオ様が幼稚園に上がる前からお慕いしていました。オレっち、ヤモリのイモリと申します。以後、お見知りおきを……」

「はぁ?ヤモリなのにイモリ?」



 何言ってるの、このヤモリ?

 首をひねるアタシの肩からヤモリは飛び降りて、チョロチョロと素早く勉強机の上にかけ上った。そして、アルが日記を書いていたノートにもぐり込んで、器用にそれを押し広げた。

 わぁ、スゴイ!



「ヤモリの……ぐっ……ぐぅわっ……ごっ……ぐぇっ……」



 ヤモリは転がっているエンピツをくわえて、首をグググイッと曲げて、見るからに苦しそうな格好でノートに文字を書き上げた。

 何なの今日は? ヘロヘロの字を書くエラそうなハムスターと、ナヨナヨの字を書く変な言葉づかいのヤモリに出会うって…


 ノートに大きく書かれたの文字。イモリ……トカゲ?



「イモリはオレっちの苗字です」

「ワタシの手記に、勝手にヘタクソな字を書くな! それに何だ、そのフザケた名前は。ヤモリのイモリトカゲだと? ジョークか? トカゲジョークなのか?」



 アタシの体をかけ上がってパジャマの胸ポケットにもぐり込み、チョコンと顔を出してこれでもかってくらい文句を並べるアル。

 『ヘタクソな字』ってアルが言っちゃうの? たしかに変な名前だと思うけど、ポケットに隠れてまでわざわざケンカを売らなくてもいいのに……



「トカゲじゃねぇっての、この大福ネズミ! トーエイだ! イモリトーエイ!」



 『大福ネズミ』って……

 チラッとポケットのアルを見る。白くて丸くて、たしかに似てるけど……


 トーエイはアルに向かって口を大きく開けて『キーッ』という音を立てた。こういうのイカクコウイって言うんだよね。



「ゴメンナサイ……アタシも『トカゲ』って読んじゃった」



 名前を読み間違うって、スゴく相手に失礼だよね。悪気はなかったんだけど……

 トーエイは片方の前足だけを器用に上げて、顔の下でピコピコと振った。



「ナオ様はいいんですよ、ナオ様は。オレっちのコトは好きなように呼んでやって下さい。オイ、よそ者!オレっちはこの家を代々守るヤモリの末裔だ! オマエ、どこからわいて出た? よそ者が居座る場所なんざ、便所にすらねぇぞ!」



 アタシとアルに対する態度違いすぎ。アルは怒ってピクッと体を揺らして前歯をむいた。



「トカゲ風情が言ってくれるじゃないか。ワタシがどこから来たかって、オマエが聞いて分かるのか? よし、言ってやろう。耳の穴かっぽじってよく聞けよ? ワタシはロシア連邦トゥヴァ共和国から……」



 トーエイはグッと顔を上げる。



「あぁ? トゥヴァだって? トゥヴァのどこ?」

「ムンギュン・タイガ山の北側だが……」



 アルは丸い目をさらに丸くしてポケットから身を乗り出した。



「おっ? ……あの湖が多い所か? 本当か? そんなに遠くから日本へ来たのか? その辺のペットショップから逃げ出した、どこぞの馬のホネかと思ったぜ」



 トーエイは前足を張り顔を上げて、アクアクと口を開けた。

 何でそんなコト知ってるのよ?

 アルはジーッとトーエイを見て、プイッとソッポを向いてポケットの中に潜り込んだ。



「トゥヴァを知っているからって、トカゲに気を許したりしないからな、ワタシは……」

「トカゲじゃねぇって! は虫類の見分けもつかないような大福は、こっちから願い下げだ。そもそも何のためにナオ様に近づいた!」



 そう言えば、聞いている途中だった、青いオーラが出ているって言うアタシに会って、一体何をするつもりなのかな?何か手伝ってほしそうだったけど……

 アルはポケットから鼻先だけ出して、ピクピクと髭を揺らした。



「フッ……聞いて驚け、腰を抜かせ! ワタシが青いオーラを放つナオを右腕とし、目指す野望はただ一つ……」



 ゴクッ……



 アタシは息を飲んだ。いつもより心臓のドキドキが早い気がする。

 トーエイはペロッと自分の両眼をなめ回していた。



「世界征服だ!!」





 …………………………………………………はぁぁぁぁ!?

 何言っっちゃってるの? このハムスター……


 アタシと……青いオーラと……世界征服が全然結びつかないんですけど。


 トーエイは瞳をギラッと輝かせて、クワッと大きく口を開けた。

 怒ってるのかな? 当たり前よね。世界を征服するだなんて……



「ハッ、笑わせるな! 寝言は寝てから言え! 世界を征服するのはナオ様だ!」





 えぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~!?

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