第2話 高橋 麗子

あの婆さんの事は以前から知っていた。

前にエントランスで声を掛けられ「駐輪場の傍の木を切った事、知ってる?」と聞かれた。

「いいえ」と答えると「木を切るのに30万かかったんやて!」

「え?そんなにかかったんですか?」

「そうや!あんたらはまだ若いからマンションの事なんか興味ないかもしれへんけど、もうちょっと興味持って欲しいねん。

毎月高い管理費払って何にどんだけ使われてるか分からんし、これから年金生活の人も増えていくし、そうなったら管理費かて払われへんようになる人も出て来るかわからんし、それで・・・・・・」とその後も延々と話が続きそうだったのでこの時も適当なところで切り上げた。


また別の日には、外でやたらと写真を撮っていた。

チラ見したら、気付いたようで「私なぁ、ブログに載せようと思ってなぁ」


こんな婆さんがブログやってるの?と思ったけど「あ、そうなんですか」と答えておいた。


しかし昨日は私を見ても覚えてないようだった。

「このマンションにあんたみたいな人がおったんやなぁ」と言っていた。

私も以前にお話しした事があります、とは言わなかった。


「いつでも遊びに来て。うちは夜来てくれてもええよ!」


最後にはそう言ってくれた。


まさかこの婆さんと話が合うわけないし、とにかく臭いが酷いのである。


この臭いで26歳の男とデート?

お気の毒・・・・いや、その話は事実なんだろうか?

まぁどちらでもいい。


それよりも婆さんから聞かされた話で気になるのはこのマンションの管理組合の話だ。

どうやら管理組合が機能していないらしい。


最近、理事長が新しく変わったらしいのだが、前の理事長はかなり使い込みをしていたらしく、その悪い習慣を断ち切るためにも見張り役が必要で、私はこの歳になっても副理事長をやってるけど、もう歳で務まらない、今の理事長はまだ若いからしっかりした女房役が必要や、あんたがやり、との事だった。


そんな事言われても・・・・別居とはいえ年老いた両親の問題。また妹夫婦が何やら問題ばかりでその度に相談に乗っている。


しかし、管理状態も悪く、トラブルばかりのマンションも何とかしなくてはならないし頭の痛い問題ではある。


やはりこの婆さんの言う通りかもしれない。

このマンションの事は一体何がどうなってるのかよく分からないので、兎に角この婆さんから色々話を聞いて教えて貰うしかなさそうである。


どう考えてもあの婆さんに副理事長というのは無理があるし、何だかこのマンションの行く末が心配になってきた。

安心して暮らしていけるようなマンションではない気がしてきて不安になるばかりであった。


ローン組んでそれ以外にも管理費修繕積立金、固定資産税・・・

少し嫌な事があっても引っ越しは容易ではない。


清掃は行き届いてないし、共用部分の使い方は滅茶苦茶、上からの生活音はまる聞こえ。隣人は全く人の迷惑を考えないような人。


毎日暗澹とした気持ちになるような家に住んでいて、一番落ち着けるはずの場所が一番ストレスを感じる場所になっている。


もう少し婆さんと色々話をしてみようかな。


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