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「実は」

 サーブするグラスが四つ目になった時、彼女は何処か他人事のように言った。

「私、結構モテるんです」

「え」っと出そうになった言葉を寸でで飲み込む。顔は赤くなっていないようだけれど結構酔っているようだ。目がとろんとしている。

「それが嫌で嫌で、顔が見えないようにしていたらいつの間にか猫背が癖になっていて、性格ももっと暗くなってしまいました」

 どうやら彼女は高校生時代までモテてモテて困っていたそう。すれ違いざまにナンパなんて日常茶飯事でそれで嫌な目にも沢山会ったのだとか。だから大学に進学する時に自分のことを知らない地域まで来て、顔を隠すようにしたらしい。これ、なんて言うの? 逆大学デビュー?

「本当はもうずっとこのまま生きていこうと思っていたんです。別に誰も困らないし、勝手に距離を置いてくれるから楽だったし」

 なんかおじちゃん悲しいわ。そんなことを喜ぶ子がいるなんてことに。

「でも、先輩は違いました。今でこそ顔のことを言ってきますけど、最初はそうじゃなかったんです」

 最初は違った?

「ひとりで食べるご飯って美味しくなくない? って声を掛けて来たんです」

 誰とも会わないような、校舎の影でひっそりと食べていたのをトガシ君が見つけて声を掛けて来たんだと彼女は言った。

「最初は嫌で逃げていたんですけれど、先輩がしつこくて。結局私が根負けして、と言っても先輩にだけですけど」

 彼女はいつの間にか顔を上げて言葉を紡いていた。その表情は本当に――

「アンタは顔だけは良いのにもったいないから、あたしの服を着てミスコンで優勝しなさいって言ってきて。本当は過去のこともあるし、顔をいろんな人に見られるのは嫌なんですけど、でも先輩が喜ぶなら」

 やってもいいかなって、と彼女は続ける。

「先輩を誰かに取られたくないし・・・ほら、あの人顔だけは良いから」

「ふふ、そうですね」

 そう言って微笑むと、彼女もにっこりと返してくれた。それは初めて見た彼女の笑顔だった。


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