第四話~これがゲームの世界か~
「お父様っ! お父様はどこですかっ!」
怒鳴り声を出しながら、ずかずかと進んでいく。すると突然お母様が現れて、押さえつけられた。
「ちょ、お母様っ!」
「あらあらうふふ。刺客かと思ったわ」
刺客を捕えようとするお母様はいったい何者ですかっ!
ということは本人に聞けない。だって怖いし。謎多き公爵夫人の正体を知ってしまったら、生きて帰れない気がする。
そんなことよりお父様っ!
宰相であるお父様ならこの国の碌でもない法についてどうにかしてくれるかもしれない。というかしてよ。
お母様の拘束が解かれた後はイノシシのごとく突っ込んでお父様のいる場所を目指す。
お母様は「あらあらうふふ」と微笑みながら私の後をついてきた。どうやら止める気はないようだ。ならお母様を気にする必要はないし私の味方だと思っていればいい。きっと助けてくれるはずだ。
お父様の仕事部屋の前に来た。蹴り破ろうと思ったけど、そんなことをして破滅の運命に影響が出たら大変だ。言いたいことは山ほどあるけど、何が破滅に影響するかわからない。だってこの世界は乙女ゲームとは名ばかりのバカゲーの世界だ。下手なことをしでかせば、破滅の運命を迎えた時にさらに大変な目に遭う気がする。
穏便に、尚且つ言いたいことを的確に伝える。これを心がけよう。
そして、お父様の仕事部屋の扉を蹴り破った。
「おんどりゃぁ! 何ムーちゃん殺しとんじゃわれっ!」
しまったっ! つい本音と行動が逆になってしまった。どどど、どうしよう。
「うぉ、びっくりした。ヘンリーか。そんなに怒ってどうした? 下手すると法に引っかかるぞ」
怒るだけで引っかかる法とはいったい。確かに、日本でも器物破損とかあったけど。
…………なんか、嫌な予感がする。
だがそんなことは気にしないことにした。言いたいことを言い切って、何とか誤魔化そうっ!
「お父様っ! お父様なら法を変えられますよね。きっとそうですよね。だったら今すぐペットを食さなければならないという碌でもない法をなくしてくださいっ!」
「なんでそんな話になるのかわからないが無理だな」
「なんでですかっ」
「なんでといわれても無理なものは無理だ」
うぐぅ、この分からず屋のお父様にどうやって頼み込めばいいんだ。これじゃあ話が進まない。もう二度と、ムーちゃんのようなかわいいペットを食べる目にあいたくないだけなのに。
「はあ、法を変えるのは本当に無理なんだ。それこそ俺の一存じゃどうにもならない。どうしてそんな話になったのやら」
「それは、私の大事なムーちゃんが食事に出されたからですっ!」
「おいしかったか?」
「はいっ! それはもう絶品でした! ってそうじゃないですよっ!」
ああもう、埒が明かない。こうなったら実力行使しかない。
腕を捲りお父様に近づこうとする。ここで一発入れてやる、そういきこんでいたのに首根っこ引っ張られて止められてしまった。
ま、まさか、お母様?
そう思って振り返ると、ダンディーなおじ様がいた。
「お嬢様、それはいけません」
このおじ様はゼバスチャン。お父様に仕える執事であり、ブスガルト家の執事長も務めている。かなりお偉い人なんだ。
ちょっと頭の固いとこがあるけど、基本は優しくてまじめ。
実はセバスチャンって名づけられるはずだったのに、誤ってゼバスチャンと名づけられたらしい。
そのゼバスが私の首根っこつかんで押さえつけてきた。怒っている風にも見えず笑っているようにも見えず、なんていえばいいか、無表情な感じだった。それが怖くって私の体は固まってしまう。まるで蛇に睨まれたカエルの気分。
っと、その時、ゼバスの後ろから鋭い一撃がっ!
ゼバスは何事もなく私の首根っこつかんだ腕のほうで防御する。
わ、私を盾にしないでっ!
目の前に一瞬何かが見えたような気がする。けどそのあとに舞い起こった風が髪を乱して視界を狭める。若干ドレスもよれよれに。
な、何が起こったのっ!
「あら~、娘を盾にするのは卑怯じゃない?」
「……奥方様、今と昔は立場が違うのですから、もう少し落ち着いてください」
「うふふ、そうするわゼバス。でも……私の娘を虐めると………………ねっ」
お母様は笑顔でそう言っているのだが、目が笑っていない。ほんとお母様っていったい何者……。
ゼバスはそんなお母様を無表情で受け流す。この人本当にすごい。
にしても、暴力に訴えようとしたのがすぐにばれてしまった。これではどうしようもない。やっぱり、お願いしまくってお父様にどうにかしてもらうしかない。
「お父様っ! 私はムーちゃんを食べてしまったと聞いた時、とっても悲しかったのです。だからそんな法はなくすべきだと思うのです」
「はあ、いいかヘンリー。子供だからわからないだろうが、この国の法は誰にも手が出せないのだ」
「それはどういうことですか? お父様は宰相様なんでしょ?」
「それはそうなのだが、宰相であっても国王であっても手が出せないもの、それが法だ。その理由は簡単だ」
「ん?」
なんか雲行きが怪しくなってきた。王様ですら手が出せない法ってなに?
法律って国を維持するためのルールでしょ。皆が好き勝手すると国として成り立たなくなるから一定のルールを守って豊かな国にしましょうよってことだよね?
じゃあ国を運営している王様や宰相であるお父様をはじめとする貴族が話し合って決めていくのが普通じゃない。
お父様が言っている意味が分からない……。
「この国の法は歴代国王の名言で決まっているのだ」
…………はぁ?
「ある代の国王陛下はおっしゃった。動物は人の手によって飼いならされるために存在する。だからこそ動物は力を持ち、人は知能を持っている。知恵あるものが力ある者を従えれば更なる発展に繋がるだろう。ただし、人に危害を加える動物は処分しなければならない。力ある害悪は破滅を呼ぶ。ただし命を粗末にすることを神は望まない。ゆえに食え。そしてその命を我ら人間の糧にしようぞーーっと。これにより人に危害を加えた動物は食さなければならなくなったのだ。命を粗末にしちゃいかんぞ」
「いやいやいや、そうじゃないでしょう。というより、歴代の国王陛下の名言集が法律って国としてどうかしていると思うのですがっ! そしてなんでそんなことをいっちゃいますかね、ある代の国王陛下っ!」
なんでこの国成り立っちゃってんの? そういえばこの国の国名って……ハーメツンじゃなかったっけ。国名からして破滅を呼びそうだよっ!
こ、これがゲームの世界というやつか。こんなの地球だったら絶対にありえない。あったとしてもすぐに滅ぶぞ。
でもハーメツンは1000年以上あり続けている大きな国だ。
ほんと、どうなっているの、この世界は……。
「そんなに怒るな。法を破ればだれもが破滅する。子供であろうともな。だからこそ気を付けなければならん」
ほんと、6歳児に何言ってんだこいつ。おっと、お父様をこいつ呼ばわりしちゃった。
「それに、ペットをウリボウにしてやっただろう? 別にいいではないか」
「どういうことですかお父様」
「いやなに。この国でペットとして需要が高いのはウリボウや子豚、鳥、ウサギなんだ。どうしてかわかるか?」
「…………かわいいからだと思います」
犬や猫もかわいいけどウサギとか鳥さんもかわいいよね。かわいいペットと楽しく過ごせれば心が安らぐよ。
でも、日本人としての記憶がある私はペットといえば犬や猫のイメージがある。
亀とか蛇とかオオイグアナとか飼っている人もいるけど、多くの人は犬や猫だった。
でもこの国はなぜにウリボウや子豚、鳥さんなんだろう。
地球でもどこかの国では鳥がペットとしての需要が高いというところもあったけど、同じような理由かな?
「やはり、子供にはわからんか。おいしいからに決まっているだろう」
「え、ちょっと待ってください。食べる前提でペットを飼うのですか」
「当たり前だろう。言葉も通じぬ動物はいつ法を破るかわからん。この国では9割のペットが法を破って食卓に出されるぞ。そんなことも知らんのか」
だから、こっちは6歳児。ってそうじゃなくて、この国の住人はしつけもできないのかっ! だったらペットを飼うなよ。
「それに、非常食にもなるしな」
「それはやめてあげてっ!」
碌でもない法律に碌でもない文化。なんでこんな国が成り立っちゃっているのか不思議だけど、ゲームの世界と言われたら納得できちゃう。
なるほど、これがゲームの世界か。本当にやべーな。私はこれからどうなっちゃうのっ! 破滅の運命云々の前にこの国に破滅させられちゃいそうな気がするっ!
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