第5話  再び

「実は娘は、今は元気ですが、昔は病気がちだったのです」

俺には信じられなかった。


「パパ、後は私から話すわ・・・」

女子高生が、話に入ってきた。

「そうか、そうだな・・・」

紳士は席を立ち、変わりに女子高生が腰を下ろす。


「おじさん」

「なんだ?」

「パパがさっき言ってたことは本当なの?」

「病気がちだったってことが?」

女子高生はうなずいた。


「あっ、私の名前をまだ教えてなかったね」

「そういうや、訊いてなかったな」

名前の事など、気にした事がないのが本音だった。

その必要は、ないと思っていたからだ。


「私の名前なは、鈴名瀬梨(すずなせり)、6月20日生まれB型の18歳です」

「俺は・・・

「東一(あずまはじめ)。5月22日生まれのO型。57歳ね」

「知ってたのか・・・」

「もちろん」

(彼女の名前を訊いた時、春の七草を思い浮かべた事は、言うまでもあるまい)


「しかしどうして俺を?」

「最初はね、正直興味本位だったよ」

「だろうな・・・」

「でもね、何とかしてあげたいというのは、本当だったわ」

「なぜ?」

目の前の女子高生に訪ねた・・・


「おじさんは、いつもひとりだった。とても、寂しそうだった。

最初は、正直ボランティア気どりでいたわ」

「それが、普通だよ」

「でもね、話していくうちに、私が助けてあげたいと、いつしか愛情に変わったわ」

(余計な御世話だとは、言えなかった)

「この間、おじさんに絵を描いてもらったよね?ネコの絵」

「ああ、あれね・・・捨ててるだろ?」

「ううん、残してるよ。」

「ありがとね・・・」

未だに状況がつかめない。


「あの時言った事、覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ」

「あれは全部本当だよ。私がおじさんのそばにいて、おじさんの力になりたい。

おじさんに、もう寂しい思いをさせてくない。そう思うようになったの?」

「なんで、俺なんかと?お前なら、もっといい人見つけられるだろ?」

「おじさんじゃなきゃだめなの?」

目の前の女子高生は、頭を下げた。


「おじさんが、笑われるのなら、私も一緒に笑われる。

おじさんが、背負う物なら、私も背負う・・・だからお願いします」

女子高生、いや、彼女は頭を下げる。

いつになく真剣だ・・・


俺は断るつもりで言葉を出した。

「苦労するぞ!プリンセス。お前にそれが耐えられるか?」

彼女は頭をあげて答えた。

なーんちゃってと、言う言葉が出てくるとおもってた。

あるいはそれと、同等の言葉が・・・


「はい。ふつつかものですが、よろしくお願いします」

予想外の言葉に、用意していた言葉は、どれも出せなかった。


「引き寄せの法則」という言葉がある。

俺は無意識のうちに、彼女を・・・嫁を引き寄せていたのかもしれない・・・

嫁よりも、俺の命が先に尽きるのは、間違いない。


でも、生きている間は守ろうと思う。

俺を初めて、愛してくれた人を・・・


俺は筆を握った・・・


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