第4話 突然に・・・

「あの失礼ですが、私の事をどこで・・・」

俺は、その男性に訪ねた。


高価な衣装を身にまとっているので、普通の人ではあるまい。


「漫画家ではよくありますよね?」

「何がですか?」

「手○治虫先生に憧れた、藤○不二雄先生とか・・・」

「確かにありますね」

「私にとって、あなたが藤○不二雄先生にとっての、手○治虫先生だったのです」

俺には、この男性の・・・いや紳士の意味が分からなかった・・・


その紳士は答えた。

「実は昔は、私も絵師を目指していまして、先生が目標だったのです」

「私がですか・・・」

俺は、意味がわからなかった。

俺の絵のどこに、魅力を感じたのか、こっちが訊きたいくらいだった。


「先生の絵は、とても温かく、心を打つものがありました。

私もいつか、先生のような絵を描いてみたいと思うようになったのです」

「・・・どうも・・・」

予想外の発言に、言葉が思い浮かばない・・・


「しかし、私には才能がなかった・・・仕方なく自分で会社を起こしました」

「ご立派ですね」

しかし、紳士は寂しそうな表情を浮かべた。


「幸い、苦労はしましたが、どうにか成功を収める事ができました。

でも、なぜか満たされないのです。」

「でも、今は幸せなんじゃ・・・」


紳士は首を横に振る。

「私は辛い時、あなたの先生の絵を見ました。そしたら、とても元気が出たのです」

「私の絵がですか・・・」

紳士はうなずいた。


「いつか先生に会いたいと思っていました。しかし、いつしかあなたは表舞台から消えてしまった。」

「私の限界でしたからね・・・」

俺は、過去を蒸し返されているようで、少し辛かった・・・


「そして、先生を探しまくりました。灯台もと暗しで、先生は近くにいました。

しかし、それと同時に、現状を知り寂しくなりました」

(悪かったな)と、心で思ったが、口には出来なかった。


「そこで、娘に頼んだのです。純真無垢な娘なら、きっとあなたを救ってくれると」

「無垢?こいつが純真無垢ですか・・いや失礼・・・」

俺は顔を赤らめて席に着く。

(さすがに、失言だったか・・・)


「構いませんよ、先生。その通りです」

「どうも・・・」

女子高生の事をチラ見する。

だが、微笑んでるだけだった・・・

なんかかってが違う・・・


「先生、どうでしょう?」

「何がですか?」

「うちの娘を、嫁にもらってやってください」

さすがに椅子から、転げ落ちた。


「いくらなんでも、それは冗談がすぎますよ」

「冗談ではありません。本気です。娘の望みでもあります」

女子高生を見る。笑顔でうなずいた・・・


「まさか、私に会社の仕事をしろと?無理ですよ」

「ご安心ください。息子が何人かいますので・・・」

「そうですか・・・」

「いかかでしょう、先生」

俺はしばらく考えて・・・


「ドッキリですか?」

「いいえ、本気です」

「冷やかしですか?」

「本気です」

「四月バカでは、ありませんよね?」

「今日は、9月3日です」

他にも考えたが、出てこない。


「しかしなぜ娘さんを・・・」

「それは、娘があなたを愛しているからです」

「なんで、私みたいな、年寄り近い人を・・・」

「それは娘が、あなたと似ているからです」

「似ているから?」

俺はわけが解らなかった。


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