第2話 女子高生

「ねえねえ、おじさん」

「なんだ、また君か・・・」

ひとりの女子高生が、声をかけてきた・・・


「なんか用か?」

俺はオウム返しに答える。

「用って程でもないんだけどね・・・」

「なら、向こうへ行ってくれ!俺は人が嫌いなんだ」

俺は視線をそれす。


「おじさんって、絵描きだったんでしょ?」

「ああ、昔の話だがな」

「今は、描いているの?」

この女子高生は、喧嘩売りに来たのか?

知っているだろうに・・・


「筆はとっくに折った」

「・・・そうなんだ・・・」

女子高生が、悲しそうな表情をしたのは、気のせいだろう・・・


「ねえ、描いてみてよ」

「何?」

「だから、見てみたいの?おじさんの絵」

「見てどうする」

「おじさんの事、知りたいなと思って」

そういって、ノートとボールペンを渡してきた。


「走り描きでいいから、描いてみて、サイン入れてね」

「・・・で、何を描けばいい?」

仕方なく、ノートとボールペンを受け取る。

ノートは、新品のようだ・・・


「何でもいいよ。任せる。・・・そうだな・・・おじさんの好きな物」

「好きな物?」

「うん、好きな物を描いて・・・私はだめよ、モデル料高いから・・・」

(この女、何様だ?)

心の中で思ったが、口には出さないでいた。


仕方なく俺は、絵を描いた。

何年ぶりだろう・・・ペンを握るのは・・・

さすがにブランクは大きすぎたが、どうにか描き上げた。

ご希望通り、サインも入れた。


但し、サインは即席、以前のものではない・・・


そしてノートを渡す。

「今の俺なんて、こんなものだよ・・・」

俺は、子猫の絵を描いた・・・

女子高生は、どうやって笑い飛ばすすのか・・・

どうやって、言い返そうか・・・

それが、頭をよぎる・・・


しかし、女子高生は俺の絵を見て、真剣に答えた。

「おじさん、本当は、人間が大好きなんだね」

「えっ」

予想外の発言に、俺は驚いた。


「わたし、絵は素人なんだけど、なんていうか、とても優しい気持ちになれるよ・・・」

「優しい気持ち・・・」

「うん、それにおじさんは、とても、寂しがり屋」

「なんで、お前にわかる」

「わたしには、わかるもん、この絵、もらっていい?」

「そのつもりで、描かせたんだろ」

「あたり!」

掴みどころのない女だ。


「おじさん、本当は、1人は嫌なんでしょ?」

「余計なお世話だ」

俺は怒って、その場から立ち去った。


「おじさん、明日も会おうね」

後から、女子高生の声がしたが、耳には届かないふりをした。


次の日、同じ時刻に同じ公園に行ったが、女子高生は現れなかった。

その次の日も、そのまた次の日も、女子高生は来なかった。

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