最終話 反撃の狼煙

部活が始まる前、

「おい!みんな揃っているか!!」

柳生先生が武道場の扉を開け、いや外して飛び入ってきた。

「一応、みんな居ますけど。」

「よし、集まれ!!」

ドッと刀の鞘を武道場の床に叩きつける。

「柳生ですか。」

「柳生先生?」

「どうしたんですか?」

「何でしょうか、私また何かやらかして」

「良かった、全員いるな。

今すぐ武装しろ!

すぐに敵が」

ドウッーーー―!!!!!

激しい音と共に

コンクリートが崩れ落ちる音がする。

その瞬間、5人の顔つきが変わる。

「良いか、私に続け。決して前に出るな。」

柳生先生が刀を取り出す。

俺を含めた5人がそれぞれの武器を構えながら武道場から出る柳生先生の後ろに続く。

ていうか日野の武器は斧だったんだな。

体重に見合った武器と言うべきだろうな。

「それにして一体どうやって?」

「分かりません。昨日は確かに月に1度の入島可能日ではありましたが。

そう簡単には。」

「1つだけ言えることがある。」

「裏切り者ですか。」

「察しが良いな。」

「えぇ、あるいはと思いまして。

入島可能日に合わせて

特別な装備があればあるいは と思いまして。」

「全くその通りだった。」

あれは!!

校門の壁が崩れてその外からは

大量の奴ら。

目にピンク色の光を宿した人が50人以上は居る。

そして中には一際巨大な光を立ち上らせた男が5人、混ざっていた。

「数が多いな。」

「参りましたね。今日は確か運動部が校庭の整備の関係で無いはずです。」

「確か内の高校は運動部が9割だったよな。」

「はい、そのため恐らく残っているのは...」

「俺たちと先生だけってことか。」

「そういうことでしたら、私達が力を貸すしかありませんね。」

「高橋先生!」

「私だけではありません、と言ってもあまり人数は多くありませんが。」

恐らく2年以上のどこかの担当の先生なのだろう、

俺は顔を見たこともない先生が

赤い薙刀を構えて4階から降り立った。

それに続いて、茶道部の部活中だったのか

着物姿の女性が4人降り立つ。

っていうか皆さん人間やめているのが素晴らしいね。

こういう時は本当に心強い。

「茶道部だけか?」

「えぇ、残念ながらみんな出払っているようです。」

高橋先生が薙刀を肩に構え直す。

凄い、手練っぽいがあの数は捌ききれるのか?

ここ1ヶ月のシバかれ具合は激しいせいで

何となく分かるんだが

今、こっちにフラフラ向かってきている奴らは強い。

1人、いや1体が玉城達と同等の戦闘能力を持っているような感じすら受ける。

いくら柳生先生が強くてもこれはキツい。

「田中、お前を奪われればこの戦いは負けだ。

絶対に負けるなよ。」

柳生先生が脇差ではなく、太刀2本を構えてゆらゆらと独特の歩法で

奴らに向かって歩き始める。

「私も少し肩が凝っていますわ。」

高橋先生がそれに続く。

「肩凝りならちょうど良い相手がいるな。」

「全く、肩だけでなく、全身がほぐれそう。」

「足を引っ張るなよ。高橋。」

「当然ですよ。柳生。」

高橋先生と柳生先生が一斉に奴らに駆けていく。

「あの二人なら恐らくは切り抜けるでしょう。

ともかく、今はあなたを逃がすことを最優先にします。」

「今思ったんだが、俺をあいつらに差し出せば

マリア達が争う必要はないんじゃないか?」

あの数にも関わらず柳生先生が一人も倒せていない。

このままだとジリ貧でみんなやられる。

「いいえ、あなたを失えば3柱の内2つを失うことになる。

そうなれば神力の場は大きく崩れるどころでは済まない。

日本全土が大災害に見舞われかねません。」

「っ.....」

「えぇ、ともかく

私達は柳生とは反対側、あちらからの敵を迎え撃ちましょう。

そして生徒と先生達と合流しましょう。

合流地点は既に全校生徒及び教員に通知しています。」

マリアが校門とは反対側、

山側から襲い来る奴らの姿を指差す。

「数が多い な...」

「全くでしてよ。」

流石にいつも余裕のある菱光ですら

額に汗を浮かばせて表情を固く結んでいる。

やはり、かなり追い込まれているみたいだな。

「ともかく、柳生達が囮になっている間に駆け抜けましょう。」

「あっ、飛んだっ!!」

奴らの内の一人いや数人が一斉に天使のような真っ白で半透明な羽を

広げて飛び上がる。

「くっ!!」

マリアが一瞬遅れて光剣を顕出させると、

脚力だけで奴らの場所まで飛び上がる。

「行きますわ!!!」

菱光の号令で俺、玉城が刀と籠手を構える。

菱光が構えた槍の後に続いて奴らへと突っ込む。

「ぐぉっ~!!」

まるでゾンビのように精気を失った男の一人が

目から激しい光を噴出させつつ俺に向かって斧を振り下ろす。

だが柳生先生の太刀に慣れていた俺は難なくそれを太刀の曲線にそって受け流し、

そのまま太刀の頭で男の頭部を突く。

「成長しましたね。」

「まぁなっ!」

次々と振り下ろされる斧やら剣を

刀で弾き飛ばす。

だがキリがないぞ。

この数。

玉城ほどの速さじゃないが、

数が多いわ力が強いわ。

かなりキツいぞ。

だが全員の制御がバラバラなおかげでありがたいことに

1人1人を相手に出来る。

玉城と菱光、それと玉城で何とか一人ずつ倒していく。

どうやら頭部が弱点らしく気絶する程度に殴れば

何とかなるらしい。

操られている人には悪いが少し強めに殴ることになるな。

「まだこんなにいんの~。」

「弱気はまずくてよ。

あと日野さんと茶道部の人も戦って」

「古き炎よ、辺りを浄化せよ!!!」

ゴウッ!!!激しい炎の奔流が日野と茶道部の人達の背後から現れると

俺たちごと奴らを包む。

その炎の効果なのか奴らは苦しそうにもがきながら地面に突っ伏していくが、

俺たちは全くなんともない。

「凄い。」

「あちらも片付いたようですね。」

マリアが空中で敵を片付けたらしく俺の前に降り立つ。

相変わらず頼りになるな。

「流石は柳生先生ってところか。」

「田中、聞こえるか?」

「はい。」

突然、スマホが通話モードになる。

昨日、寮に届いたばかりの新品だ。

っていうかこんな通話アプリ入れた覚えがないが、

まぁ良い。

「私達は正門から出て寮の横を通って山へと向かう。」

「でも戦力の分散は」

「安心しろ、裏門を出た辺りで恐らく数人の生徒と合流出来るはずだ。

私達は出来る限りエリスの洗脳を解きながら進む。

お前たちは自分達の安全を確保しながらここに迎え。」

言い終わるなり、通信が切断された。

そしてスマホには学校のちょうど裏と言ってもかなり遠いが

山の頂上の上にビーコンが表示されている。

「なるほど、あそこなら社が近いですし、

何とか日が暮れても戦えるかもしれません。」

「そんな長期戦になるのか?」

「はい、この様子だと島民のほとんどが操られていると考えるべきでしょうから。」

「くっ。」

「でもどうして、こんなに早く。」

「恐らくはエリスの本体か、それに準ずる何かが直接出向いてきた。」

「あっちもここと俺を落とせば勝つから、本気を出して来たってことだな。」

「えぇ、ですがそう簡単にはあなたを取らせはしない。」

マリアが俺の手を握ると玉城達に合わせて早いペースで裏門へと走る。

こんな状況ですら、一番年下の俺を気遣ってくれてる。

「マリア、今こういうことを言うのも何だが。

ありがとな。」

「全く、映画で言うと必ず死ぬセリフです。

それはこの襲撃を乗り切った後で改て聞きます。」

「はは、了解だ。」

俺たちは更に進んでいくが、

時々校舎から奴らの残党が飛び降りてくる。

それを反射神経の優れたマリアと玉城が迎撃する。

そのせいで隊列が毎回乱れ、移動が止まる。

敵さんも流石にバカではないらしいな。

だが、裏門まで行けば.…


「着いた!」

裏門に着くと、確かに生徒は居た。

それも1クラス程度の人数が。

だが

「みんなやられてる....」

全員が深手を追って倒れ込んでいた。

「嘘でしょ。」

日野がかすれた声を出しながらへたりこむ。

「ふむ。こんなものか。

やはり日本の陽の神というのも存外大したことがない。

植民地化も容易いな。」

「!!!」

裏門の近くにある、倉庫の物陰から一人の少女が現れる。

白がかった金髪に、透き通るような透明な肌。

それに明らかに日本人ではない彫りの深い顔。

それに校長が悪ノリで着ていたゴスロリではなく、

ハリウッド女優が着るような大胆に肩や胸が見えるドレス。

直感が告げている、こいつがエリスだ。

「どうした?私がそやつらの敵だぞ。

あともう少しでそやつらは私の眷属になる。

日本の女というものは良い。

中々に良いものだ。

おっと名乗るのが遅れたな。

私がエリス。

と言っても既にご存知の通り、

私は神であるからして体が無く、この体は借り物であるがな。」

エリス、

こいつが.…

「どうした?

逃げなくて良いのか?

みなで頑張れば1人ぐらいは私から逃がせよう。

ふふっ。」

「みんなでやるぞ。日野と茶道部の人はみんなの治療を頼む。

出来るんだろ?」

「はい。おまかせください。」

「全く、やるしかありませんね。

柳生を呼んでおきますか......」

マリアがポケットに入っているらしい携帯を

ワンタップでコールして切る。

「柳生、ふむ。あの男の子孫か。それは面白そうな。」

エリスが顔をニヤリと歪ませる。

「安心して下さい。泰一。

あなたは私が守ります。」

「それじゃあ、何のために部活を頑張ったか分からないだろ。」

俺は刀を抜いて、希望を強く頭に焼き付ける。

ただ生きてここを切り抜けて、みんなとまた部活をしたい。

「ほぅ。やはり今が熟れ時と言ったところか。」

俺の刀の蒼い輝きが徐々に腕から全身へと伝わっていく。

「あれが。」

「ぶっつけ本番で出来るとは思ってなかったが。」

「スサノオの力の片鱗と言ったところか。

私に見せてみろ。」

エリスがひらひらとしたドレスを振り回しながら迫りくる。

ドレスの裾が揺れる度に地面に亀裂が走る。

「言われなくてもそのつもりだ。」

「私達もいることよ。」

玉城と菱光が俺の前に出る。

「マリア、俺たちが抑える。

だからトドメは頼んだぞ。」

「ふふっ、あらら。

抑える?私を?

もしかして全校生徒を動員する気かしら?

それぐらいじゃないと私は抑えられないわよ。」

「言ってろ。」

「全くですわっ。」

「はっ倒す!!」

柳生先生ほどとはいかないまでも、

スサノオの力によって強化された身体能力をフルに使って

居合で奴の喉笛めがけて刀を振るう。

玉城は籠手で右側から奴の腹部を

菱光は剛槍とでも言うべき槍を奴の目に向かって突き込む。

「甘い、甘いの。」

それら全てをまるで埃でも振るうかのように素手で弾き飛ばす。

「マリア来るな!」

俺を信じているマリアがその勢いのまま飛び込んできた。

「遅い。」

エリスが袖を振るう。

衝撃が俺の上を飛び越えるのが分かった。

「ぐうっ。」

マリアが腹部から血を吹き出しながら倒れ込む。

「マリア!!!!」

俺は刀を放って飛び下がる。

何とか地面に付く前にマリアを抱きとめる。

「っ。」

手にベトリという感触があった。

「誰か、誰か!!!来てくれ!!」

「ぐっ。」

「あっ。」

後ろから誰かの声が上がる。

振り返ると玉城と菱光が倒れ込んでいた。

「あっ....」

「どうした、私が来てやったぞ。」

エリスが近づいてくる。

「やめろ、やめてくれ。」

ただ懇願する俺にエリスは巨大な斧を握り、振り下ろす。

「っ!!!」

「待たせたな。」

斧が空高く弾き飛ばされる。

「柳生先生!!!」

「すまなかったな。道中かなり足止めされ」

「マリアが、マリアが」

「大丈夫だ。すぐに専属医師の佐藤に見せろ。

あいつならどんな傷でも死なない限りは治す。

ここに行け!

走れ!!!」

柳生先生が額に汗をにじませながら叫ぶ。

「お前達も力を全開にして担げるだけ担いで生徒を運べ!!」

既に体を固まらせていた茶道部4人とマリアへの攻撃で

何とか受けながらしていた玉城と菱光が立ち上がる。

「分かりました。」

2人共口に湧き上がってくる血を吐きながら

辺りに倒れている生徒数人を一気に担ぎ込む。

「田中、お前はマリアを絶対に放すなよ。」

「えぇ。」

「私が合図したら一気に駆け抜けろ。」

「はい。」

柳生先生が珍しく赤色に輝く刀を鞘に納めたまま

腰だめに構える。

「ふむ、あの男の子孫らしく。

見事な構えだな。

植民地化の折にはぜひとも私の麾下に迎え入れたいものだ。」

「誰が。」

「強がるのは良くないわ。

あなたは私には勝てない。分かっているのでしょう?」

「ははっ、残念ながら生徒の前では私は最強なんだよ。」

「それではそこの男に残ってもらえば?」

「お前の狙いはやはり田中か。」

「当たり前よ。その男さえ落とせば

確率的にスサノオと共鳴出来るものはここ数十年生まれない。

ましてや少子化の進行する日本においてはな。

その間にこの国を植民地化するなど容易い。」

「話が長いな。自信がない現れか?」

「ふっ、これは余裕というものだ。」

エリスが一瞬だけ左目を光らせる。

するとその瞬間、柳生先生の耳をかすめる所を光線が貫く。

「良いのか?手の内を明かして?」

「それより、良いのかしら?あの生徒達を逃がす時間を稼いでいるようだけど、

どうせ私はあの子達には手を上げるつもりはないの。

その男と逃げるよりは

そこに寝かせておいた方が安全ではなくて?」

「無論だ。」

ジリジリと柳生先生が距離を詰めていく。

「おめでたいこと。」

裾をふっと振るう。

そこから生じた衝撃波を柳生先生が

一瞬だけ抜き去った太刀で空へと弾き飛ばす。

「見えた。」

「その状態の田中なら私の太刀筋も見えるか、

嬉しいぞ。」

柳生先生は肩からわずかに血を流しながらそんなことを言ってくれる。

「ふふっ、良い仲のようね。

柳生と言ったかしら、あなたは生け捕りにするわ。

そしてその男の死体を見せて あ げ る。」

「今だ!!」

柳生先生が叫んだ瞬間に俺たちはエリスの横を駆け抜ける。

それと同時に両手の袖を振り上げようとしたエリスの両腕を

柳生先生の両太刀が挟み込むようにして押さえつける。

「速いこと。」

エリスはこちらを一瞥すると柳生先生の方へ向き直る。

「柳生先生!!山頂で待ってます!!」

「分かった!!!」

俺たちは柳生先生を信じてただひたすらに走った。


「はぁはぁ。着いた.......」

それぞれ特殊な力を駆使して全力で走ること10分、

自動車よりちょい速いぐらいの速度で山頂へと着いたか。

「マリア!!!」

専属医師らしい金髪の髭の男が駆け寄ってきた。

わかりやすくちゃんと白衣まで着てるよ。

恐らく髪色

「すいません。俺がちゃんとしていればマリアは」

「何言ってんだ。俺はこいつの親だぜ。

こいつがお前のおかげでこいつが助かったのは分かるぜ。

ここまで運んできてくれてありがとよ。

不肖の娘が迷惑かけたな。」

そう言いながらも高速で手を動かし、

マリアの傷を次々と塞いでいく。

確かに凄い腕だな。

素人目だから良く分からないけど。

「....

俺、あいつと決着を付けてきます。」

「ダメだ。」

「でも、マリアがやられたのは俺のせいで」

「バカヤロウッ!!!」

俺の頬に鈍痛が走ると同時に体が空中で一回転して

顔面から地面に落ちる。

「んっ?」

マリアが細めで目を開く。

「マリア、起きたか?」

何とか起き上がってマリアの顔を覗き込む。

「はい。流石は私の父と言った所でしょうか。」

「へへっ、たまには親らしいことぐらいやらせろや。」

「今回ばかりは礼を言っておきます。」

「へへ、それで充分だぜ。」

「仲が良いんだな。」

「悪くはありませんね。」

「それでよ。多分、こいつはお前のためにこの怪我したわけじゃないんだぜ。」

「でも、俺は。」

「反省は大いにしろよ。俺の可愛い娘を傷物にしたんだろうし。」

「されてません。」

「ついでにまだガキのくせにいきがりやがって。」

「むしろ泰一は謙虚ですが。」

「だがな、全部お前が背負う必要はないんだ。

見ろよ。この高校にはこれだけ生徒が居るんだ。

あっちに俺の怖い女も居るけどよ。

ともかく、お前一人が背負うにはまだ早いんだよ。

ちったあ頼りやがれ。」

「....分かりました。

とは言っても柳生先生を一人で戦わせておくわけには。」

「ですね。私も含めて動ける人間を」

「お前は無理だ。」

「いいえ、動け」

マリアが立ち上がろうとしてバランスを崩す。

「お前の回復力でも完治まであと2日は掛かる。

諦めろ。」

「くっ。」

それでも立ち上がろうとして倒れ込む。

「それでは私の出番のようじゃな。」

突如校長が社の上に現れる。

「校長!!」

「おぉ、スサノオの小僧。

ようやった、

後は私達と生徒に。」

「出来ません。」

「だが、お主は私達の玉のようなものじゃぞ。

自重せい。」

「これでもですか?」

刀を取り出し、全力で希望を頭に刻み込む。

その瞬間、俺の体から数mほどの蒼い光の柱が立ち上る。

「ふむ。光剣の小娘は越えたか。」

「今、ここで俺を温存してみんながやられてしまっては元も子もありません。

それに、俺は柳生先生にまだ恩の一つも返せてない。」

「ふむ。仕方があるまい。

お主を今ここに軟禁する戦力すら惜しい。

それにマリアも飛べぬのであれば島の外に逃がすことすら無理か。」

「校長、俺を戦わせて下さい。」

「全く登校初日から逃亡しようとした生徒とは思えぬな。」

「はは、そのあの時は何も知らんかったというか。」

「まぁ良い。その話は後でゆっくりとするとしよう。

よいか!!!聞け!!!!」

校長の声で生徒全員と教員が一斉に居直る。

「私達の総力を持って奴を叩く!!!

以上だ!」

やけに単純な掛け声だが、

俺たちの心は既に奮い立っていた。

校長がさっと社の屋根から飛び降りる。

その瞬間、フリル付きのゴスロリが

赤色の和服へと変わる。

生着替えを見せられた気がするが、忘れよう。

別に幼女趣味ないし。

すると白山が今更逃げてきたのか、息を切らしながら校長に近づく。

「なるほど、やはり貴様が。」

「えぇ、気づいてたみたいですね。」

「あぁ、察しは着いていた。」

「エリス様は社に行くから待っておれ と。」

「ふっ、信頼されているようだな。」

「私はエリス様の忠実なしもべですから。」

「それじゃあ、白山が?」

「私がエリス様をこの島に呼んだ。

勿論、あなた達を皆殺しにするためよ。」

「どうして!!!」

玉城が叫ぶ。

そう言えば、白山と同じクラスだったな。

「決まってるじゃない。柱が2/3も折れた脆い建物より、

強い大黒柱が支える建物の中に居たいとは思わない?」

登校初日に俺を投げ倒しつつも、

どこかあどけなさが残っていたあの少女の面影は全くなかった。

その目からは盲信という名の自己暗示が強く、強く根を下ろしているのが分かる。

「待たせた。我が下僕よ。」

「はい、エリス様。」

エリスが全身からピンク色の光を溢れ出させながら現れる。

「久しいな、エリスよ。」

「あの時の小娘か。ずいぶんと出世したものだ。」

「お前のおかげだよ。」

「そうか、感謝してもらわねばならんな。」

「ふふっ、確かに今は感謝すらしている。

このような素晴らしい生徒達を巡り合うことが出来た。

もちろん、白山お前も含めてな。」

「私を今更取り戻そうとした所で無駄です。」

「そうか。」

「我が下僕を籠絡しようとしても無駄ぞ。」

「そのようだ。」

「それにこの女のことなら安心せい。」

「柳生先生!!!」

奴の背中から生えた巨大な羽、いや手の中に

柳生先生が横たわっていた。

「柳生を倒したか、さすがは腐っても神と言ったところか。」

「ふん、こやつの体はもらい受ける。後でな。」

「そう簡単にさせると思っておるのか?」

「私は神ぞ。願えばかなう。」

エリスが裾をふっと振るい、

その衝撃だけで木を真っ二つに切断する。

「それだけの力を持っていながら柳生には苦戦したと見えるな、」

「その通り。久々にこの姿になったものだ。

まったく素晴らしい女よ。

生前の私以上だろう。」

「貴様はただの踊り子であろうが。」

「ふむ、そうであったか?」

校長がじりじりと下がる。

「田中、実を言うとじゃな。私は戦闘タイプではない。」

「はぁ?」

思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

「いやー、なんかこう雰囲気的に盛り上がるかなーって。」

「校長がこんなに雑な人だとは思いませんでした。」

いや、もともとこの学校の関係者って良くも悪くも雑だよな。

マリアは秘密主義で説明雑だし、柳生先生は物理法則に雑だし。

「というわけでかかれ!!!」

校長が全身に深紅の光を纏うと、

俺たち生徒と教員全員に光が絡みつく。

「雑な….」

いろいろ突っ込みどころがあるが、無視して

俺たちはエリスに向かって一斉に切りかかる。

ある者は上から、他の者は一瞬で背後に回って後ろから

もちろん俺は真正面から太刀で突きを繰り出す。

「有象無象が束になってかかろうともっ!」

エリスは元踊り子らしく体を軽く一回転させる、

その瞬間俺達全員に激しい衝撃が加わり、

同心円状に数mほど後退させられる。

スサノオの力のおかげでかなり耐久力が上がったせいか、

何とか動けるが全身が痛い。

その瞬間、パァーーン!

校長が隠し持っていた旧式の拳銃でエリスの脳天を打ち抜く。

「ぐっ!」

エリスは銃弾をまともに食らったのか、

頭から血を噴出させながら後ろに倒れこむ。

「あっけない。」

........

「と思ったか?」

エリスがまるで糸に引っ張られているかのようにむくりと上体を戻す。

「まさか生徒全員を囮に使うとはな。」

エリスもさすがに想定外だったらしく、

舌打ちしながら頭の血をそっとぬぐう。

「当然だろう。いくら貴様と言えどそんなひどい体に入っていれば

能力も落ちる。

高性能ソフトをいくらインストールしようとも

処理に見合った性能しか発揮できぬのを知らぬのか?」

「ふふっ、フハハハハハハ!!!!」

エリスが狂ったように笑う。

月光がまるでそれをたたえるかのように雲間から姿を現し、

エリスの長身の姿を照らす。

「なにがおかしい。」

「肉体ならあるではないか?」

エリスが後ろに倒れこんでいる生徒を蹴飛ばし、

気絶している柳生先生の元へと歩み寄る。

「ふふっ、これで貴様らも終わりだ。」

「くっ。」

校長が苦い顔をする。

「柳生を倒したか、さすがは腐っても神と言ったところか。」

「ふん、こやつの体はもらい受ける。後でな。」

「そう簡単にさせると思うてか?」

「私は神ぞ。願えばかなう。」

エリスが裾をふっと振るい、

その衝撃だけで木を真っ二つに切断する。

「それだけの力を持っていながら柳生には苦戦したと見えるな、」

「その通り、久々にこの姿になったものだ。

まったく素晴らしい女よ。

生前の私以上だろう。」

「貴様はただの踊り子であろうが。」

「ふむ、そうであったか?」

エリスは生前の記憶があやふやらしく、

首をかしげる。

校長がじりじりと下がる。

「田中、実を言うとじゃな。私は戦闘タイプではない。」

「はぁ?」

思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

「いやー、なんかこう雰囲気的に盛り上がるかなーって。」

「校長がこんなに雑な人だとは思いませんでした。」

いや、もともとこの学校の関係者って良くも悪くも雑だよな。

マリアは秘密主義で説明雑だし、柳生先生は物理法則に雑だし。

「というわけでかかれ!!!」

校長が全身に深紅の光を纏うと、

俺たち生徒と教員全員に光が絡みつく。

「雑な….」

いろいろ突っ込みどころがあるが、無視して

俺たちはエリスに向かって一斉に切りかかる。

ある者は上から、他の者は一瞬で背後に回って後ろから

もちろん俺は真正面から太刀で突きを繰り出す。

「有象無象が束になってかかろうともっ!」

エリスは元踊り子らしく体を軽く一回転させる、

その瞬間俺達全員に激しい衝撃が加わり、

同心円状に数mほど後退させられる。

さらにエリスはドレスの裾をすっと上げると、

吹き飛ばされた状態の俺たちの体にさらに衝撃波が数十、

いや数百ほど襲いかかる。

もう、ダメか。

これはやられ過ぎたな.....

そう思った瞬間、パァーーン!

校長が生徒を盾にしていたのか起き上がり、

隠し持っていた旧式の拳銃でエリスの脳天を打ち抜く。

「ぐっ!」

エリスは銃弾をまともに食らったのか、

頭から血を噴出させながら後ろに倒れこむ。

「あっけない。」

「と思ったか?」

エリスがまるで糸に引っ張られているかのようにむくりと体を戻す。

「まさか生徒全員を囮に使うとはな。」

エリスもさすがに想定外だったらしく、

舌打ちしながら頭の血をそっとぬぐう。

「当然だろう。いくら貴様と言えど、

そんなひどい体に入っていれば能力も落ちる。

これで終わりじゃ。」

「ふふっ、フハハハハハハ!!!!」

エリスが狂ったように笑う。

月光がまるでそれをたたえるかのように雲間から姿を現し、

エリスの長身の姿を照らす。

「なにがおかしい。」

「肉体ならあるではないか?」

エリスが後ろに倒れこんでいる生徒を蹴飛ばし、

気絶している柳生先生の元へと歩み寄る。

「ふふっ、これで貴様らも終わりだ。」

「くっ。」

校長が苦い顔をする。

「トレース コネクト」

エリスが柳生先生の頬にそっと触れ、

何かを唱える。

「これで。 ぐっあああああああ!!」

柳生先生の体にピンク色の光が走った途端、

エリスの体、ドレスから見えている肩や腕の血管が膨れ上がる。

「ぐっ、はぁはぁ。」

「何をしている?柳生の体がほしいのだろう?」

「貴様、何をした?」

「何、簡単なことさ。毒を盛った。」

「馬鹿な、こんな量の毒物。

普通の人間はし

ぐぇぇぇっ。」

エリスがその場に吐きこむ。

「無知なお前に授業をしてやろう。

お前は人間がほかの動物と比べ、

何が優れているか知っているか?」

「知恵だろう、そのおかげで私は貴様らに乗り移り操れ 

ぐぇぇっ」

エリスは嘔吐が止まらず、その場に座り込む。

俺は校長がエリスの注意を引いている間に

奴の背後へと転がりながら回り込む。

「違うな。解毒能力だよ。

肝臓、お前の中にもあるだろう?」

「っ!!」

「どうやら西洋の神というのは神聖な者が大好きなようだからな。

処女、童貞、断酒、禁欲、枚挙にいとまがない。

ならば、その逆をしてやればよいというもの。

毒をこの上なく盛ってやったわ。」

「くそっ!!こんな女の体っ!!」

エリスが袖を振り下ろすとした瞬間、

「させるわけないだろ。」

背後からエリスの体を刀で突き刺した。

「ぐうぉ、貴様我が一撃をどうやって?」

「まともに食らったぞ?」

「馬鹿め、貴様の授業料はその体だったようだな。

ちなみに補習として教えてやろう。

スサノオを宿した者が得る最高にして最強の力、

それがタフさだ。

やはり男はタフでなければならん。」

「え?」

エリスが豆鉄砲を食らったような顔をする。

そりゃあそうだよなぁ。

こんな地味な能力、普通気づかないようなぁ。

俺もたった1ヶ月だがそれを実感している。

確かに身体能力も上がるには上がるが、

それも他の生徒に比べればしょぼい。

玉城みたいな速さ、

柳生先生のような怪力、

マリアのような羽も綺麗な剣も出せない。

「そういうことだ。俺は頑丈なんだ。」

刀をエリスの体から抜き去る。

「ぐぅっ。」

エリスが力無く地面に倒れ込む。

「それに、社の近くまでわざわざ来る辺りが貴様の命運が尽きていたのだ。」

「校長、勝ったのは良いですが、みんなが....」

マリア達、負傷者は社にかくまったおかげで恐らく無事だが、

俺以外の全員がかなりの致命傷を負っていた。

「全く、お前はなぜ私が社の近くを決戦に選んだか分かっておるのか?」

校長が1人の生徒の傷口を指差す。

「こ、これは。」

傷が急速に治っていく。

「この社はアマテラスを分霊したものが祀ってある。

アマテラスを宿す者の治癒能力を高めれる。

それに私の力を受け渡しているお前達が

そう簡単に死ぬわけがなかろう。」

「それじゃあ、そこまで読んで?」

「当然、そ奴が柳生を気に入ることも、

奴がお前を仕留めるまで止まれぬことも知っておる。」

「止まれない?」

「やつは弟が憎いのだ。

勿論それは日本の神、スサノオにも向けられている。

そのスサノオが寵愛しているお主を前にして

奴が冷静さを保てるはずがなかろう。」

「それじゃあ、これで。」

「いいや、奴の本体はこやつではない。

恐らく、奴の本国の娼婦辺りを引っ張ってきたのだろう。

哀れな娘よ。

本体はすでに東京に根を深く張っておる。

そやつを倒さぬ限り、

また新しいこのような娘が生まれるだけだ。」

俺が刀で突き刺した女性から蒼い光が消え去る。

不思議なことに、物理的な傷はなかった。

「そんなことよりじゃ、

我々はこれより反撃に出るぞ。」

「反撃 ですか?」

「あぁ。我々はこの島から打って出る。

そして本土を奴の手から取り戻す!!」

その校長の覚悟に満ちた目は夜にも関わらず太陽のように輝いていた。


数年後

「マリア背中は任せた!!」

「えぇ。お任せ下さい。」

俺たちは本州、そのちょうど真中辺りの京都で戦っている。

「それにしても強くなりましたね。」

「マリアもな。」

俺とマリアの太刀と光剣が

赤と青の軌跡を描く。

その度にエリスの眷属だった人が

プツリプツリと倒れていく。

「終わりましたね。」

「あぁ。」

マリアとハイタッチを交わす。

「そろそろ柳生も合流する頃合いですね。」

「だな。」

「どうしたのですか?」

「いや、出会った時を思い出しててな。」

「そうですか。ちなみに彼女達とは?」

「あぁ、いまでも連絡を取り合ってるよ。」

「っと。来ましたね。」

「だな。やるか。」

「はい。」

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姉の島  筋坊主 @musclepriest496

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