第7話 裏切りとボディーガード

翌朝

「起きていますか?」

いつもより少し早い時間にマリアが俺の椅子に座っていた。

だがいつもと違い、顔が暗い。

「今起きた。ふわ~、どうしたんだ?」

「重大な話があるのです。

良いですか?心して聞いて下さい。」

・・・・・・

「要約すると俺を襲ったあの襲撃者を操った奴が居て、

そいつは学園内にいる裏切り者の手引きで

入島したに違いないってことだな。」

「はい。」

「それも残念ながら

2年の人間であると特定出来ています。」

「どうしてだ?」

「私達を襲う前、

入島出来る日は月末限られています。」

「どうしてだ?」

「この島に船で近づくには毎月月末でなければ、

海流の関係で不可能なのです。

それ以外の日に近付こうとするとあらゆる船が挫傷します。

アマテラスの加護とでも呼びましょうか。

ともかく、

その加護のおかげでこの島は

今まで奴らの海からの侵入を防いできました。」

「どうやってもか?」

「なぜ私が好きでもない普通車を

運転したと思っているのですか?」

「空からなら出来るが海は無理と。」

「はい。ただあの車も校長、理事長。

その他役員の承認がなければピクリとも動かない鉄くずですが。」

「だったらその日に行動出来たのが2年だけってこなのか?」

「はい、先月その日に3年以上は合宿中でしたから。」

「合宿まであるのか?」

「えぇ、まぁあなたを除けば女性しかいませんし

ほぼ全員が寮生なので大して変わりませんから。

一応、学校にも宿泊施設が併設されています、

仕事中毒な某教員はそこに居住しているとか。」

「宿泊施設か、あれだけデカいとあるよな。」

「えぇ、と言っても流石にこの寮ほどは豪華ではありませんが。」

「豪華?この寮がか?」

「えぇ、あなたの部屋は例外で と話がそれましたね。」

「何か、露骨に話たくなさそうだな。」

「えぇ、この部屋は元々用具入れで他は全てスィートルームなんて

口が裂けても言えませんから。」

「まじかよ。」

聞かなきゃよかったぜ。

今度柳生先生に相談しよ。

「マジです。ちなみに空部屋はありません。」

ダメなのか.....

「ガクッ。」

「それはともかく、

2年に裏切り者がいるのは確かなのです。

一応、上の階ですし、

念には念を入れてあなたには部員の内の一人以上と行動を共にしてもらいます。

幸いなことに彼女達は完璧なアリバイというか、

共に行動していましたから。」

「でもマリアがいつも居るだろ?」

「いいえ、そうもいきません。私はいつ呼び出しが掛かるか。」

「ずっと気になってたんだが、

時々来る呼出ってのはなんなんだ?」

「さきほど言った通り、この海は月に1度しか入れませんが、

空からは自由に入れます。

空中から襲い来る奴らに対抗するには

やはり空を飛べる私が有利ですから。」

「空を飛ぶ?

あれ...

そんな裏設定みたいな。」

「執事ですので。」

「執事って。料理は出来ないのにな。」

「ぐぬっっ。今まではあなたの護衛が最優先であったり、

屋内で見せる機会がありませんでしたが、

この通り。」

ヒュッとマリアの背中から赤く輝く鳥の羽のようなものが顕現する。

「そんな小さな羽で飛べるのか?」

「一応、超小型の原発程度の力は出せるのでご安心下さい。」

「はぁ。もう突っ込まないぞ。」

原発とか言われてもピンとは来ないが、

要は車の数百倍のエネルギーを出せるってことだろ。

全く意味が分からないな。

「で、他に居ないのか?

何もマリアが忙しい中しなくても...」

「飛行型の武具を授かるのは中々珍しいらしく、

私以外には4年に2人ほどですね。彼女達と交代で防衛にあたっています。」

「それは大変だな。

ちなみに部員が一緒にいる必要がって授業中もなのか?」

「いいえ、柳生には及びませんが、教員全員が精鋭ですので

授業中はご安心を。」

「だろうな。」

何となく、俺もスサノオって奴の力が慣れたせいなのか、

マリアの力や柳生先生の力が感じ取れるようになってわかったが、

教員全員がマリアと同格、いや中には上回る力を持っているのが分かる。

中でも凄いのが前、茶道部か何かで廊下をすれ違った着物の女性、

この島は和服の女性が強い法則でもあるのかもしれない、

力の根源が変態な神だけあって な。

「それで、早速ですが私は。」

「分かった。気をつけろよ。」

マリアが姿を消す。

そして部屋の外に居るのが分かる。

「玉城さん?」

扉を開くと玉城、あのスポ根に出てきそうな日焼けした女子が立っていた。

既に運動を終えた後でシャワーを浴び終わったのか

石鹸のいい匂いがする。

「あぁ。迎えに来たよ。

全く、何時まで寝てるんだか。

10時就寝、5時起床。

その後、軽くジョギングが基本でしょうが。」

「全員があなたのように身軽には走れなくてよ。」

菱光が玉城の後ろから姿を現す。

それも胸を左手で強調しながら。

「私は貧乳なんかじゃないから!」

玉城が必死で反論するも、

菱光は王者のプライドとでも言わんばかりに

今度は両手で自分の胸を挟んで強調し始める。

「菱光さんも迎えに来てくれたのか。ありがとう。」

「全く、私に召使いのようなことさせて、

本当にしょうがないのだから。」

「ちょっと、私にはお礼はないの?」

玉城が頬をぷくっとふくらませる。

「玉城さんもありがとう。」

「うんうん、素直でよろしい。」

俺より少しいや10cmは高い、

長身の玉城が上から俺の頭を撫でる。

こうして改めて見ると、凄く背が高いな。

俺が大体170だから180は越えてそうだ。

「私の顔に何かついてる?」

「いいや、こうして見るとかっこいいなって。」

「もう知らない!!」

ベシっ!

激しく俺の頭を強打して玉城がさっさと行ってしまう。

「全く、あなたは....女の扱いというものを知らないのかしら。

あぁ言う脳筋女は女扱いするだけで良いの。

逆にかっこいいとか、背が高いことをコンプレックスに思っているから、

それに言及するのはタブーね。」

「誰が脳筋だ!!」

既に廊下の端まで行っていたにも関わらず、

かなりの地獄耳なのか

玉城が大声を張り上げる。

「全く、こう耳が地獄だと色々可哀想ね。」

「ほっとけ!金持ちビッチ!」

「誰がビッチっちゃ!!

大体うちは ハッ!」

「怒ると方言出るんだな。

可愛いと思うぞ。」

「ううっ、恥ずかしいちゃ。」

菱光が顔を急速に真っ赤に染め上げながら

手で隠す。

だが耳まで真っ赤なせいで意味がないね。

「悪いが、

ちょっとだけ準備して来るから待っててくれ。」

「嫌ですわ。

私も手伝いますの。」

「だが、俺一人だし。」

「あら、

あなたに私を手篭めに出来るだけの器があると思って?」

「はは、それじゃあ頼もうかな。」

「そうね、

あの家事のでき無さそうな女にも

やらせて見ようかしら。」

「だーれーが―家事ができないって?」

瞬間移動でもしたかのように玉城が姿を現す。

相変わらずとんでもない身体能力だ。

「あなた以外にいませんことよ。」

「私の家事スキルの高さを見せつけてやる!!」

マリアがショッピングモールで

買い込んだ冷蔵庫の食材がここで活きた。

俺一人だとレパートリーが少ないから使い切れないものも

玉城が次々とグルメに変えていく。

マリアに触らせるとなぜか炭化するのと違って、

玉城はかなりスキルが高かった。

正直言ってそこらの外食店よりは美味い。

「美味い。これなんてやつなんだ?」

「知らない、直感的に作ったの。

脳筋女だもん。ふんっ。」

「そう気にするなって。」

「別に。」

「全く、あなたと言う人は。」

「って、菱光は結局何もしてないじゃない!!!」

「あら、誰かさんが張り切ってするから

私が居ては邪魔だと思って。」

「ぐぬぬ~~。」

相変わらずこの二人は仲が良いな。

「っと、こんな時間だ。

食洗機、マリアが付けてくれたからそれに入れといてくれ。」

「分かりましたわ。」

「ふぅ、食べた。食べた。」

「って、もしかして護衛と称して

腹ごしらえしに来るつもりか?」

「だって...私お金ないし。」

玉城は確かにお金無さそうだな。

すんごいカロリー消費してそうだし、

仕送りとか学費補助とかが全部食費に飛ぶんだろう。

「私は家事スキルがありませんの。

マリアさんほど ではありませんけど。」

こっちはこっちで問題あり か....

「なるほどな。

それじゃあマリアが居ない時はよろしく頼む。」

途中、

登校中にヘッドホンを付けた日野が誰かと楽しそうに話していた。

友達は出来たのか。

まぁ、それはそうか。

あのヘッドホン無い時の身体能力以外は至って普通の人だからな。

ていうか、むしろ頭良いらしいし。

ただ....胸部は普通じゃなかった気がしなくはないが.…

ともかく、良かった。


数日後

どうやら日野は既にクラスに馴染めているらしく、

玉城達と部活終わりにクラスメイトの話をしていた。

順調に見えたそんな日常、

いつまでも続くと思っていたそれは突然崩れ落ちるのだった。

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