第6話 休日はイオンに行くそれは俺たちの宿命で

4日後 日曜日

「それでは参りますか。」

マリアはなぜか

そこそこ暑いのにブラウンのロングコートに黒いブーツ、

かなり気合の入ったファッションを決めていた。

「どうしたんだ?その服。」

「はて?私に何時も通り制服を着せて連れ回そうと?

やはりあなたは大人に女子高生の制服を着せて喜ぶ変態と」

「いや、そういうわけじゃないが。暑くないか?」

「いいえ、ちゃんと胸元は空いていますので。」

マリアが上体をかがませると同時に

胸元を両腕で強調する。

「朝からそういうのは良いから。

ともかく朝飯。」

「私はあなたの母親ではありません。」

そう言いながらも机の上にコンビニで買ったらしい

いつもの朝食を並べてくれる。

「ありがとな。」

「仕方ないでしょう。私は戸籍的にはあなたの義理の姉になったのですから。」

「いや、冗談だよな?」

こいつが言うと冗談に聞こえなくはないのが怖いところだ。

「冗談です。執事でした。」

「戸籍に執事ってないんだが.......」

「それでは創りましょうか?」

「いや、そんな朝飯作るか みたいなノリで言われてもな。」

「朝食は作れませんが、

戸籍なら作れます。校長の権限で。」

「あー、聞きたくない。」

俺とマリアは15分前に寮前に降りた後、

5分後には玉城と菱光が合流し、

それを見計らったように5階から柳生先生が飛び降りてきた。

もう柳生先生と良い、マリアと良い

この学校の人間辞め具合には驚くのを止めた。

最後に

「おまたせしました!!」

昨日と同じく何度もこけたのか、

ボロボロの服をまとった日野が走ってきた。

と思ったらコケた。

「大丈夫か?」

「は、はい~。」

もう転び過ぎて目を回してるぞ、こいつ。

「それでは行きましょうか。

このさきのショッピングモール ですよね。」

「えぇ、私の会社も一部出資していますの。」

「そういうお金の関連の話はいいから~。」

玉城は金勘定が苦手なのか、

苦い顔をする。

「あなたはそんなだから、

月末には私の昼食を横取りすることになりますのよ。」

「てへ?」

「可愛い顔をしても、もう流石に誤魔化されなくてよ。」

「そんなこと言わないで~。」

「柳生先生、その服は何か意味があるんですか?」

「こ、これか?」

柳生先生は自分の少し胸元の開けた大胆な浴衣を指差す。

「何か、夏祭りにでも行くような服ですけど。」

「ま、まぁ。その何というか気合が入ってしまってな。

それに、その休日だろう?

服装は自由だ。」

柳生先生が少し照れながら浴衣の裾で自分の体のラインを隠す。

柳生先生って、着痩せするタイプだったんだな。

ちょっと小さめの浴衣着るだけでハリウッド女優並のスタイルなのが分かった。

本当に目の毒でけしらかん。

「わ、私のためにすいません。すいません。」

日野はなぜかペコペコし始めてさらに転ぶ。

「仕方がない、車で行くか?」

「そうしましょうか。」

流石にほとんど歩いていないにも関わらずボロボロの

日野が可愛そうになった柳生先生がそんな提案をし

俺たちはマリアの運転で数キロ先のショッピングモールへと到着するのだった。


「凄い大きいな。」

中に入ると、どこにでもあるショッピングモールだ。

何の代わりもない。

7階建てというかなりのデカさを除けばだが。

「まぁ、多少は私の趣味も入っていますわ。」

「流石は出資者ってところか。」

「もっと褒めてくれてもよくてよ。」

「本来の目的をお忘れなく。」

「それもそうね。って日野さん?」

日野はすでにボロボロで、マリアに抱きかかえられていた。

「すいません、すいません。」

「ていうか、日野の身体能力はなにかで制限されているような感じだな。」

「制限ですか?」

傍から見ると単純にドジを極めてようにしか見えないが。

「もしかして、いつもトレードをしている時は何かルーティンか何かしているのか?」

「ルーティンですか......

うーん、いつもは音楽を聞きながら」

「それじゃないのか?」

「音楽は店の中でも掛かってますよ。」

「それじゃあ、私降りてみますね。 ブッ!!」

マリアから降りようと足を付けた途端に

ベタッと顔を床につけるようにしてコケる。

「やっぱダメか。」

「すいません、すいません。」

「いや、俺の方が悪かったよ。」

「もしかして、何か特定の道具を使っていませんか?」

「スピーカーとかか?」

「私はヘッドホンです。痛い....」

自分の顔を摩りながら涙目で答える。

「ヘッドホン、それじゃないのか!!!」

「どういうことですか?」

「マリア、ヘッドホンを買ってきてくれるか?」

柳生先生の目が変わる。

「はい。」

一瞬でマリアが消える。

相変わらず凄い速いな。

......

数十秒後

「おまたせしました。」

結構高そうな黒いヘッドホンを日野の頭にかける。

すると

「歩いてみろ。」

柳生先生が日野の体を立たせる。

「は、はい。」

1、2、3、4歩。

まともに歩いてる、歩いてるぞ!!

「凄いじゃないか!!」

「はい、というか何で今まであんなにコケたのでしょう。」

「分からないが、

ともかくこれでまともに生活が出来るようになったな。」

「はい!お風呂以外だとまともに生活出来そうです!

ありがとうございます、

これで....

これで学校に行ける!!!」

ショッピングモールの真ん中で

20代中盤の女性が大股を広げてへたり込み嬉し泣きする。

周りの目が痛くはあるが、

俺達はとても喜ばしかった。

・・・・・・・・・

「今日は本当にありがとうございました。」

「ふふっ、顧問として役に立てたのなら幸いだよ。」

柳生先生は早速キリッとした

女性もドキッとするような笑顔をむける。

ちなみに俺はお約束の荷物係で、

前が見えなくなるまで荷物を持たされること2回、

マリアの車とショッピングモールを往復することになった。

その後も部員のみんなと連絡先を交換しようとすると

マリアが俺のスマホを落として踏み抜き、

修理は不可ということで新品が寮に届くまでは

マリアが俺の連絡役となる など災難が続いた。


「あれ、白川 じゃない?」

「本当だ。こんな時間にどこに行くんだろ?」

「さぁな。適当に夜遊びでもしてるんだろ。」

「ふむ、教師として何か言ってやるべきだろうか。」

「柳生らしいですが、

まぁ、

プライベートには踏み込むべきではないかと。」

俺のプライベートにはガツガツ踏み込んだくせに

マリアがそんなことを言う。

だが俺たちはまだ気づかなかった、

この時の選択が白川、

あの登校初日に俺を締め上げた少女の運命を左右することになるとは。


「それではそろそろスサノオの力の覚醒にはいるとしようか。」

俺を2度ほどシゴき上げた後、

柳生先生がそんなことを言い始める。

「覚醒?こうしてさんざんシバかれたのが

スサノオってやつの修行じゃないんですか?」

「修行とは大げさな。

こんなものはただの体育の延長に過ぎんさ。

とは言っても普通の人間相手にやれば壊れるがな。」

数回武道場を横断出来るほど吹き飛ばされるのが体育の延長って。

まぁ、おかげで頑丈さは身についた気がするけどな。

「それで、覚醒って何をするんです?

刀ならこうしていつも出してますけど。」

「そうなのだ。

スサノオの力の根源は欲、

食欲、色欲、怠惰などだ。」

「キリスト教の7つの大罪のことですか?」

「あぁ、確かに言われてみれば一致しているな。それだ。

それを高めることによって恐らくスサノオの力が覚醒する 

と思う。」

「思うって.......」

「仕方がないだろう。そもそも君が初めてなのだ。」

「ですよね。」

よく分からないが、時々特別授業というのを

校舎からのぞ、じゃなかった観察したことがあるが、

この学校の生徒、教員が操るのは全て赤色の武具、

それに防具。

多分、アマテラスってやつのものだ。

俺の出せる刀が放つ蒼色のものは一つもない。

「それで だ。

まずは君の欲望を高める必要があるわけだが。」

「断食とかして食欲を高めるとかですか?」

正直言って、あんまりやりたくはないが、

目からピンク色の光を出したゾンビ軍団にやられるよりはマシだろう。

「いいや、断食をして倒れられても困る。

だから その........」

「何の欲望を?」

暴食,色欲,強欲,憂鬱,憤怒,怠惰,虚飾,傲慢

多分、手が付けやすい順だとこんな感じか。

虚飾とか着飾らないタイプの俺としては難しいし、

怠惰と傲慢は柳生先生がいる限り厳しいだろ。

あとは憤怒、強欲、それに色欲か。

「まさか。」

「そ、そうだ。色欲。それが一番良いと校長に」

「校長、何言ってるんですか~~!」

俺の叫びは武道場に響き渡った。

........

何とか部員全員で柳生先生を説得し、

別の手段を考え直させた所で今日の部活は幕を下ろした。


「全く、柳生と来たら。手段を選びませんね。

修行にかこつけて私の泰一を襲おうとするとは。」

「マリア?一応言っとくが、俺はお前のものじゃないぞ。」

「執事になった以上、お覚悟はしていただかないと。」

「何か執事の意味を勘違いしてないか?」

「いいえ、執事たるもの生涯をつくして主に使え、

やがては結ばれると。」

「ブッ!」

飲んでいた水を吹き出しちまった。

幸いなことにアスファルトの上だから良かったけど。

「何を吹き出しているのですか?」

「結ばれるかどうかはまた別の話だろ。

それに俺とマリアじゃ、その......

釣り合わないだろ。」

「そうですね。」

「って、フォローなしかよ!」

「事実ですから。

ですが釣り合うようになる。

私は信じて待っています。」

月の光とともにマリアが笑顔を向けてくる。

「すまない、遅れた。」

柳生先生がいつもの放課後の着物姿に着替えて

校舎から出てきた

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