第16話

 夢かうつつか幻か。

 俺は小さくそこにいる。


 クソみたいな人生。

 クズみたいな人生。


 そんな人生は送りたくなかったけれど。

 俺はやっぱりクズだった。


 そんな俺の前に君が現れたんだ。

 ひと目見たときすぐにわかった。


 それが君だってことを……


「水樹さん?」


 思わず声が漏れる。


「おいおい。鈴鹿!

 お前ら知り合いか?」


 担任がそう言って笑う。

 今僕は学校に来ている。

 時間は朝。

 今日は転入生がやってくる。

 そんな日だった。


「知りません」


 黒板の前に立つ女子高生がそういった。

 黒い瞳に黒い髪。

 とてもきれいな女の子。


「そうなのか?ならどうして名前を知っているんだ?」


 担任が首を傾げる。


「知りません」


 僕と彼女の声がハモる。


「あ……」


 俺と彼女の目が合う。

 そして赤くなる俺たち。


「青春か?」


 担任が笑う。

 そして一呼吸あけて言葉を続ける。


「では、七尾さん。

 自己紹介をしてくれ」


「あ、はい。

 七尾 海月姫みずきです」


 そういって女子高生が自己紹介をしてくれた。

 あれ?もしかして俺……

 赤の他人の下の名前を呼んじゃった?

 とても失礼なことをした?


 そう思うと少し不安になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る