03 lemon

第13話

 ――翌日


 僕は会いに行った。

 水樹 七緒さんに……

 酸素ボンベをつけて苦しそうな顔をしている。


 そして、僕の方を見た。

 医師の話では、もう長くないらしい。

 目もよく見えていない。


「あら?久しぶりの人が迎えに来てくれたのね」


「え?」


 水樹さんの目に色が戻った。


「鈴鹿くんだよね?」


 水樹さんの声が優しい。


「僕のことわかるの?」


「わかるよ。

 だって友だちだもの」


 その声に、言葉に救われた。


「ありがとう」


 なぜかその言葉が出た。


「でも、すっかり小さくなったのね」


「うん」


「あのね、あの……」


 僕は話した。

 僕の前世が鈴鹿隼人であることを。

 そして、最近転生して記憶が戻ったことを……

 全て話した。


「そうなのね……

 それで、会いに来てくれたの?」


「うん」


「そっか。ありがとう」


 水樹さんの温かい声。

 懐かしい感じがする。

 そっか30年ぶりになるんだもんね。

 懐かしいよね。


「変な話ね」


「え?」


「ただでさえ歳下だったのに差が開いちゃった」


「あ、うん」


「ホント、不思議な話」


「そうだね」


 水樹さんの声が明るい。


「あのね」


 僕は気持ちを伝えたかった。

 あのとき言えなかった言葉を。

 今伝えるべきだと思った。


「どうしたのかしら?小さな鈴鹿くん」


「あのね、好きでした」


 僕は伝えれた。

 人生何度目かの告白。

 勝率ゼロ%の告白。


 そして水樹さんがいう。


「もうダメね、私はすっかりおばあさんだもの」


 そう勝率ゼロ%なのは転生しても変わらない。

 そう変わらないんだ。

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