第29話

「あ、菊原課長。すみません、席を離れまして。上京の状態が悪いので連れ帰りました。顔を見せずに申し訳ございません」

『いいの、聞いたわ。かんちゃん守ったんでしょ?』

やさしい方だ。無礼をしたのに許して下さる。

こんな上司に可愛がられる上京は幸せ者だ。

『かんちゃん、具合どう?』

「まだ寝ていますが、嘔吐していないので様子を見ます」

『頼んでいいかな』

「勿論です。ありがとうございます」

『おいちゃん。あまり無理したら駄目よ。あなたが倒れたら、かんちゃん守る人いないからね?』

不覚にも泣きそうになった。

良かった、上京を見守る人がいて。

雑に扱われて頭に来たけど、尊敬する上司がいて、その方がオレの大事な人を見守ってくれる。


『かんちゃんをあなたに返して良かった』

商品部から無理やり取り戻したのに、それも許して下さるなんて。

「……ありがとうございます。失礼します」


ベッドで寝ている上京を眺めながら、本気で体張れてたか分からないけど守るしかないと思う。

『流されるな』か、分かってたな、おまえ。

だから最初から不安だったんだ。悪い事をした。

愛情を与えられないものに何を話しても、感情を向けても通じないんだ。そこをせき止めなければならなかった。相手にしたらいけなかった。例え、怒りでも。


「上京、ごめん」

「……水、飲みたいんだけど」

あ、起きてたか。良かった。


「持ってくる、待ってて」

「生田、おまえに惚れて良かった」

「……オレの台詞だ。上京が好きだよ」


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