第25話

「伊藤課長、ただいま戻りました。生田と上京です」

結局2日も待機だったな。

「ああ、おかえり。大変だったな。でも収穫があって助かるよ。先方からすぐに注文が入ったし」

「それは良かったです」

「定期注文なんて、この時期なかなか取れないからな。流石だ」

「上京が奮闘しましたので」と言ったら上京に靴を踏まれた。何で。

「ああ、でも生田がいなかったら大変だったろう。補佐する者がいないと、上京は台風並みに暴走するからな。同期の縁だな」

「ありがとうございます」

一礼してデスクに戻ろうとしたら「おーいちゃん」と部長に呼ばれた。

「はい、何でしょうか」

「きちんと話をしたんだろうね?」

「何の事でしょうか」

「とぼけるとは信じがたいね、おいちゃん! 契約を締結したのは誉めよう。そして自然災害により当初の予定より1日延泊したのも承認する。だが、肝心の」

「部長、お土産を持参しました。吉野本葛使用のくずもちです。それと、くずプリンです。冷やしてお召し上がりください」

「おお、ありがとう。いただくよ。……おいちゃん、かんちゃんは」

「あと、すみません。パティスリーとうふやの豆乳バウムクーヘンも持参していました」

「気が利くねえ、おいちゃん! 最近バウムクーヘンにはまってね。これ、取り寄せしようか買いに行こうか迷っていたんだよ」

知ってます。

いつもパソコンの前でお召し上がりでした。

このクズ。仕事しろよ。オレと上京を遠方へ送ってた間、何してた?

「では、失礼します」

「おお、お疲れ」


やれやれだ。早く引退しないかな。

デスクに戻るとスマホが鳴ってる。あ、LINEか。ああ、そうか。見なくても分かる。

「では、先に上がらせていただきます」

「おお、気を付けて」

「俺も上がります。失礼します」

「かんちゃん、明日は新入社員の歓迎会があるけど行ける? 飲めないから無理かな」

「あ、そうですね。顔は出します」

「おいちゃんは? かんちゃん行くなら来るだろ」

セット物扱い。まあいいけど。

もっと甘いものにすればよかった。砂糖漬けにしてやる、そして病院送りだ。遂行してやる。

「はい、上京が飲んだら大変なので顔を出します」

「……何か、おいちゃん。益々凛々しくなってきたねえ。これは放っておけないな? 何やら怪しいな。説明したまえ、隠し事は無しだ。きみを自由にさせているのはこの私の配慮と感謝しろ」

「部長、お先に失礼します!」



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