第23話

「やさしすぎるんだ、生田は」

「何が」

「あのきのこにも駄目だし遅いし、契約も奥手だ」

ああ、仕事の話ね。良かった、冷静だ。上着を脱いで横になると腕だけ貸した。

おいこら上京。顔が近いんだよ、おまえ。

「オレの顔を眺めていないで寝ろ」

「見飽きないな、と思うけどな」

「おまえなあ」

上京の顎を曲げた指で少し上げてキスをした。

「寝ろ」

「寝れるかな」

眠いと抜かしたのはおまえだろ。

「きのこに出し抜かれたらどうしようかと思った」

はあ?

「生田は全然その気が無いの分かってたけどさ。迫られると落ちそうな感じが」

「馬鹿なのか?」

上京を抱きしめて「好きだから一緒に住んでる、それでは不安だったりする訳?」

「いいや? 囲ってる自信はあるけど、生田はやさしすぎるから」

もうこいつ。

生殺しだな。本当に勘弁。抱いたらいいんだろうけど、抱きたいけどまずいよな。

部長の顔が頭をよぎるんだよな。萎えそう。いいのか。

「生田の気持ちを全部とは言わない、少し残してあと残りが欲しい」

「それほとんど全部だろ」

オレはやさしい人間では無いと思う。上京はそう言うけど、きのこを叩いたの見てないだろ。上京の事言われて腹が立った。おまえを知らない奴に侮辱されるのが気に入らなかった。

でも、おまえはそんな事知らなくていい。知らないから上京は汚れない。その言葉を知らせたらいけない事くらいは分かってる。

「贅沢かな」

「らしくない事言うな。貪欲に思うままに突き進むのが上京だろ。間違った方向に走ったらオレが止めてやる。好きにしたらいいんじゃない? 体張って止めてやる。気持ち全部おまえにやる」

上京の頭を撫でて抱き寄せた。

「だから何処へ行こうと、間違ってたら連れ戻す。おまえは安全だ。オレが保障する」

「は、だからやさしいって言うんだ。生田、全部俺に気持ち預けたら、おまえが無くなるぞ」

「上京がいたらオレは自我を保てる。それでいい」


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