第21話

「何だ。ホテルは別室なのか」

残念そうに言うな馬鹿野郎。

これだけは部長に嘆願したんだ。

少しはオレを解放しろ。鹿より怖い獣め。

「じゃあな、お疲れ」

ドアを閉めたら、久しぶりに1人になれた充実感が一気に感じられた。はあ、上京は可愛いけど独占されるとキツイ。自由が無い。

何もかも貪られて取り上げられてる感じがある。あの野郎、惚れていなければ警察に相談したぞ。

ベッドはシングルだけど、広く感じるな。毎日上京と寝てたから。しかも腕枕させられて。オレは何なんだ、まさか抱き枕じゃないだろうな?


スーツのまま仮眠してしまい、やばいと思って着替えたが窓を打つ風の音が聞こえた。これ危ないな。

明日、帰れるか?

フロントで空室を聴こうとドアを開けたら隣のドアも開いた。あれ、そういう仕組みのホテル?

「生田?」

「何だ、上京。寝てろよ」

「コンビニ行こうかと」

嘘つけ。おまえそんな姿で出歩かないだろ。ジャージすら着ないもんな。

室内着もしっかりしてる。

「買ってきてやるよ。何が欲しいんだ」

ここで面倒見てしまうのが悪い癖。

しかし外は台風接近、そんな夜に上京が出歩いたら風に飛ばされる。

迷子になったら菊原課長に合わせる顔が無い。探すのも面倒。不明になったらオレは心配で眠れないし会社に叱られる、何もいいことが無い。

「何買えばいい?」

「大きい抱き枕」

「そんなもの売ってない」

あるか馬鹿。

「暖かいやつ」

「冷えたのか? 風呂に入れ」

部屋にあるだろ。

「寝たいんだけど眠れないんだ」

「具体的なものを言わないと買えない」

面倒くさい。何なんだ、ぐずってるのか?

「風の音がキツイ」

そういう事か。

「分かった。部屋に来るか」

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