第10話

「そうなんですねえ。母の日の資材を3月にもう提案ですか。商社って動きが早いんだ」

うるさいなあ。

車内ではしゃぐなよ、きのこ。

「音楽でも聴くか」

上京、眉間に皺が寄ってるぞ。今からまだ取引先へ回るんだから元に戻せ。台無しだ。

「上京、顔」と軽く頭を押した。

「あ、ああ、悪い」

時々、素直。

「何か疲れてさ」

「分かる。ZIPでも流すか」

原因はきのこ。

「そういえばさ、音楽聞きながら作業すると気分的に楽だな」

「ああ、集中しなくていいから肩の力が抜ける」

「ジャンルは問わないけど、好きな曲よりまだ聞いてない曲の方が、なんか調子がいい」

「そうだな。それで結構、好きになったり、聞き直した時に『あの作業してた時の曲』って思い出して感慨深かったり」

上京とこんな話するの、あまり機会が無かったな。

と言うか、妙に話す。

ああ、あいつに話させないようにか。上京、大人になったな。

「……だるい」

だろうな。

「足、組めば? いつもしてるだろ。楽なんじゃないの」

投げ出した足が疲労感を漂わせている。

気の毒だ。オレもキツイけど。

「せめて靴、脱げよ。まだ回るからさ。おまえいないと商談が出来ない」

「むくんでないよ」

「ならいいけど」

心配だな、上京抜きだとオレ1人で進めないといけないから疲れるんだよな。押しも、強いし。

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