第9話

コンビニでアイスコーヒーだけ買って車内で飲むかと思ったら、上京が「きのこと一緒は嫌だ」と袖を引いて小声で言った。

高圧で無敵な上京にしては珍しく相手に対して配慮するので、本当に嫌なんだと思う。

まあ、車内より外の方が涼しいくらいだし。

日差しはあるけど。


「生田。母の日に提案する包装紙はいいんだけどさ、カーネーションも欲しがられてたから早めに問屋へ打診させる」

「ちゃんと商品部通せよ。おまえ、一時期在籍していたからって暴走するな」

「ああ、でも、カーネーションって卸で1ロット120本で3300円。もう少し一気に作れないものかな」

もう聞いたんだ。

「問屋、3つ聞いて貰ったんだ。何処も1ロット販売。売り切りたいからって少なすぎないか」

「そうか。なら、早めに抑えるか。余っても仕様は変わらないから来年に回せるし。うちの倉庫なら多少の在庫、置けるだろ」

もう、そんな時期なんだよな。

資材の提案は大体4か月前が最低ライン。早ければ早いほど、問屋の在庫を抑えられえる。

「包装紙の提案、仕込まないと。昨年の在庫分も処分したいから上手く丸め込むか」

賢いな、上京。隙が無い。

「倉庫から持ち越した在庫をなくせと言われたらしいな」

面倒だけど処分も出来ない。売れるときに仕込まないとロスになる。


「生田主任。まさか上京主任を日差しから避ける為にそんな立ち位置とか、無いですよね」

あ、きのこがいたんだった。

忘れてた。このまま忘れていたら良かったのに声をかけるなきのこ。

「おかしいですよね。上京主任は日陰だけど、生田主任、背中に日差し浴びていますよね」

きのこは日陰で育つんじゃないの? どうして日差しの下にいるの?

「僕も熱いんですけど、生田主任」

「燃えたら?」

言ってやるな上京。

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