不信者

「大丈夫だった?」

 久しぶりに登校した時に真っ先に声をかけられた言葉だ。でも私はその言葉すらも疑うようになっていた。

 周りの目を気にして言ってるだけじゃないのか? 本当は心配なんかしてないんじゃないのか? どうせどうでもいいとか思ってるんじゃないか? そう言う考えが頭の中を渦巻く。

 そして今日も学校に来ると、朝からデカイ声をかけられる。

「やーよいっ! 体調はどう?」

 後ろから強めに肩を叩かれた。横にはクラスメイトの由良那ゆりながいつものように笑ってこちらを向いてきた。

「うん、良くはなって来たよ」

 髪は明るい茶色に染めていて、スカートもかなり短い、私とは共通点のカケラもない存在だ。しかし何故か入学当初、クラスも違う私に話しかけて来た、それから遊びに誘われたりする仲だ。それでも私は『ただ小馬鹿にしてるだけなんだろうな』と心の中では思っていた。

「心配したんだよ、急に休むからさ」

「ご、ごめんね」

「でも弥生が戻って来て安心したよ、今度体調崩したらすぐにお見舞い行ってあげる!」

「あ、ははっ……」

 そう言うと隣のクラスに入って言った。軽くため息をついて自分のクラスに入ると次は別の人に声を掛けられた。幼馴染の弓美ゆみだった。

「おはよう、体調は大丈夫なの?」

「だいぶ良くなったから」

 普通に考えればただ心配してるだけだろう。しかしどうしても疑ってしまう、他のクラスメイトも先生や親も、もう誰も信じない生き方をするようになっていた。


 放課後、すぐに家に戻り着替えた。こんなにワクワクしたのはいつぶりだろうか、小学生の頃以来な気もする。愛車に飛び乗ると、始めて自転車に乗れるようになった無邪気な子供のように走り出した。

 誰も存在しない、この自分だけの空間。一人っきりで対話の出来る、この次元。そしてもっと遠くへとアクセルを捻った。

 少し休もうとコンビニに寄った。駐車場の隅にはフレームにくっ付いた豆の様なガソリンタンクが特徴的な見慣れない真っ赤なスクーターが止まっていた。

 横には恐らく持ち主であろう半ヘルとゴーグルをつけた、ピンクのツナギ姿の女性が立っていた。その時はそれほど気にせずにヘルメットを脱いで髪をかきあげるとそのライダーと目があった。

「あっ」

 思わず気の抜けた声が出てしまった。

「弥生じゃん!」

 同じクラスの友人より聞き慣れた声だった。


「ゆ、由良那」

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