サボった日
数週間前まで、私は不登校気味だった。最初に学校をサボったキッカケは、ちょっとしたことだった。
別に学校が嫌いなわけでも、いじめられてるわけでもない、ただ怖くなったんだ。
姿の見えない現実、先が見えない将来への不安、拭えない猜疑心。そしてそこから来る焦り。
それらが重なり、私は逃げ出した。
ダメな事だと分かってはいた。でも、もしこれ以上現実を直視できるほど私は強い人間じゃない。もしこれが甘えと言われるなら、もうそれでいいと。
勿論出来るものなら消えてしまいたい、そうすれば楽になれるから。学校をサボってる時に、高さ数十メートルはある橋の上で柵から身を乗り出したことがある。
ここから飛び降りてしまえば、全ての問題は解決する。別に自分が生きてる価値があるなんてこれっぽっちも思ってない。それに、その時は雲一つない快晴で死ぬとしても惜しくない日だった。
そんな時、背後で一台のバイクが止まった。
「なにやってるの?」
ヘルメットを脱いだショートカットの女性がこちらに近づいて、そう囁いた。
「べ、別に、その、えっと」
「まあ、しようとしてることは分かるよ」
女性は目を合わせようとはせず、ずっと遠くを見て優しく語りかけてくれた。
「あなたのしようとしてることを止めるわけじゃない。どうせ人はいつか死ぬ、だからいつ死んでも同じとか思ってるんじゃない? 私には生きてる意味が無いとかさ、そんな感じじゃない?」
図星だ、思ってること全て言い当てられてしまった。
「でもさ、なら別に今日死ぬ意味も、わざわざ自分から死ぬ意味もないんじゃない? 皆がみんな、生きてる意味があるわけじゃないしね」
私はその時、頰に涙が流れていることに気がついた。
「私だって、別に立派に働いてるわけでもないし。死ぬタイミングならいくらでもあったけどバイクがあって、それに探さないとダメなアホな友人がいるから。だから死ななかっただけなんよ。あと死ぬ勇気があるくらいならバイクに乗ってみな、楽しいからさ」
その女性はそのままヘルメットを被ってバイクに跨った。エンジンをかけると左手を上げて振り返ることなく走り去っていった。
その日は飛ぶのをやめた。そしてその次の日、車庫の前でバイクを見てしまった。
だから今こうして走ることが出来ている。朝焼けに照らされて、初夏の風に煽られて。私の夏は一足遅れてやってきた。
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