第3話 多数決の結果って正しいの?

〈登場人物〉

サヤカ……小学5年生の女の子。

ウサ……サヤカが3歳の誕生日にもらった人語を解するヌイグルミ。



サヤカ「今日、ホームルームの時間に、文化祭でする劇を何にするか話し合ったんだけど、時間内に話し合いがまとまらなくて、多数決っていうことになったんだ。それで、一応、決まったんだけど、最終的に多数決にするなら、話し合いの時間なんていらないんじゃない?」


ウサ「その話し合いの時間で、他人の意見を聞いて、自分の意見が正しいかどうかってことをよく考えるんじゃないかな」


サヤカ「でも、わたし、これまで、他人の意見を聞いても、最初の自分の意見を変えたことないよ」


ウサ「他人の意見を聞いて、もともとの自分の意見を変えなければいけない、なんてことはないのよ。他人の意見を聞いても、もともとの自分の意見の方がいいと思ったなら、変えなくてもいいのよ」


サヤカ「だったら、やっぱり、話し合いの時間なんていらないんじゃない?」


ウサ「話し合いをすることによって、意見が変わる『可能性』があるっていうことが大事なんじゃないかなあ。それとね、そもそも、その問題に対して興味が無い人に考えてもらうきっかけを作るために、話し合いが必要とされているのよ」


サヤカ「興味が無い人?」


ウサ「うん、『文化祭なんて興味無いからクラスでする劇なんて何でもいいんじゃないの』って人ね」


サヤカ「うちのクラスにはそんな人……あっ、いるかも……」


ウサ「興味が無い人も、みんなが話し合いをしていて、意見を言い合っているところを聞いたら、興味を持つかもしれないでしょ。クラスでする劇なんて何でもいいと思っている人だって、劇に参加しなくちゃいけないんだから、興味を持ってもらった方がいいよね」


サヤカ「ねえ、ウサ。その話し合いのあとに、多数決を取るでしょ。その多数決の結果が正しいって、どうして言えるの?」


ウサ「多数決の結果が、正しいかどうかなんていうことは、分からないわ」


サヤカ「えっ!?」


ウサ「だって、それは話し合いの結果、そうなったってだけのことだからね。話し合っている内容が間違っていたら、そんな間違っている内容を元にして多数決を取っても、正しい結果は導かれないでしょ?」


サヤカ「……じゃあ、間違っているかもしれないんだ」


ウサ「多数決って、その意見に賛成する人の意見が多いときに、その意見にしましょうっていうルールだからね。その賛成している多数の人が間違った判断をしていたら、多数決の結果は間違ったことになるのは、当たり前なのよ」


サヤカ「じゃあ、どうして、多数決っていうルールがあるの?」


ウサ「それはね、一人の人が一人で決めたり、少数の人が話し合って決めたりするよりも、多数の人が話し合ったあとで多数決によって決めた方が、その結果が正しい『可能性』が高いんじゃないかって、今のところ、そう考えられているからなの。でもね、サヤカちゃん、本当にその結果が正しいかどうかは分からないわけだから、多数の人が決めたことでも、自分がそうじゃないと思ったら、そのことに従う必要は無いのよ」


サヤカ「多数決の結果、わたしがやりたくない劇が選ばれていたら、その劇をやることが正しいことかどうか分からないんだから、わたしは、その劇を手伝わなくてもいいってこと?」


ウサ「そうよ」


サヤカ「そうなの!? ……でも、そんなことしたら、先生とかクラスのみんなに嫌われると思うけど」


ウサ「うん。だから、嫌われても……不利益を受けても構わないと思えば、多数決の結果なんかに従わなくてもいいの。あることが正しいかどうかっていうことは、それに賛成する人が多いかどうかなんてことじゃ、決まらないことだからね」

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