第9話

「お母さん、お仕事が忙しくて来れないんだって……」



僕は、看護婦さんが嘘をついているのがすぐにわかった。


だって、お母さんは、仕事なんてしていないからだ……

あ、もしかしたら嘘をついているのは、看護婦さんじゃなくお母さんかも知れない。


お母さんは、僕の事をかなり嫌っていたから……

それは、仕方がないよね……

僕は、大きなため息をついた。



看護婦さんは、ニッコリと微笑むと部屋を出て行った。


そして、その日、僕に会いに待合室に来たのは、お婆ちゃんだった。



「お母さんは?」



お婆ちゃんは、何も答えない。

お婆ちゃんは、ゆっくりとした口調でこう言った。



「彼方君、お婆ちゃんと一緒に暮らそうか?」



僕は、何となくわかっていた。

僕は、お母さんに捨てられたの?

僕は、涙が出そうになった。


でも、涙が流れない。


だって、お母さんは僕の事を嫌っていたから……

僕が、居なくなることでお母さんが楽になるのならそれでいい。

僕は、ゆっくりと頷いた。



「じゃ、帰ろうか……?」



僕は、コクリと頷いた。


僕は、それ以来お母さんの姿を見てはいない。

そう、僕は、お母さんに捨てられたのだ……

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