第二話 思い出にさようなら

―いつもの聞きなれた予鈴。


俺達の日常は終わった。

そのかわりに、


殺し合いの日常デスゲームが始まった。

____________________

「クソッ!なんなんだよ一体…」

「……まさか夢とかそういうオチじゃないだろうな…」

音哉は頬をつねってみた。


「いってえ!!」

頬に激痛が走り、思わず声を上げる。

「あ……そうか…声を出したら見つかるのか…」

(最後の一人になるまでってことは、クラスのみんな、いや、生徒全員が敵ってことか……?)



(嫌だ………皆を殺したくない………………)


そう思っていた刹那。


誰かがこちらを見ている。

音哉は直ぐに教壇の下に身を隠した。

「………」

「(バレてないか……?)」

「…笛口くんだね、わかってるよ。」

「う、宇都宮さん…」ガタッ

音哉は隠れていた教壇から姿を表した。


宇都宮 優うつのみや ゆう。学園で一番の元気の持ち主であり、クラスの太陽みたいな存在だ。あとは…胸が大きすぎる。

(恐らくルール的に同盟は不可能だが…宇都宮さんなら…。とりあえず普通に話そう)


「ね、ねえ…さっきの放送、聞いた?」

「…聞いたよ」

何やらいつもより元気が無いようだ。

(まあ急にこんなゲームが始まったんだし無理はないよな…)


「…私ね、放送聞いたとき、怖かったんだ…」スタ…

こっちに向かって歩いてくる。

「……でもね、殺した人数でお金が手に入るんだって」スタ…スタ…

まだ歩く。

「………私ね、お金が欲しいんだ。だから……決めたよ。」スタスタ…

カッターナイフを取り出したその手には、欲望が映っていた。



「笛口くん、殺すね」ダッ







その時、思い出は砂の如く崩れ去った。


「……!!!!」ダッ


逃げろ


逃げろ


「はぁっ、はぁっ!!」


逃げろ


逃げろ


「なんでだよ、なんでっ、!!!!」


殺される


嫌だ


死にたくない


誰も殺したくない


誰にも殺されたくない


「ああ、あ、ああああっ!!!!」


変わってしまった


「うわあああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!」



―全部変わってしまった。

このたった数十分前に殺し合いデスゲームのせいで。



ガララッ!


バタン!!!…カチャッ


急いで戸を閉め、鍵をかけた。

「はぁっ、はあっ、はっ、はぁ………」

あの宇都宮さんの顔は二度と忘れられない。

あの輝きが一切感じられない目。まるで黒ずんだ石の様だった…


『うわああああ!!開けて!開けてくれ!!!』ドンドン

戸から声がする。

善意を持って開けてやりたい。

でも開けたら、きっと後悔する。



俺自身も変わってしまった…。



『あ゛っ゛…』グチャ


グチャ ブスッ ザク グシュ ドスッ…


ナイフから出る生々しい鳴き声に、俺はただ終わりを待つことしか出来なかった。



こんな世界もう嫌だ。

大嫌いだ。



音哉はひたすらに、涙を堪えて震えるだけだった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る