第8話 世界を揺るがす『お札返し』

 亮太は心躍るままに家のマンションの扉を開けた。

 でも何かが違う、何かが。その空気に何かが引っ掛かった。


「ブーブー」スマホのメール着信の音がした。


「お母さん、お父さんと離婚することにしたから。亮太はお父さんと暮らして」

 なんだいきなり、冗談だろ。亮太は居間のソファーに腰を下ろすと、テレビのスイッチを入れた。


「大変です。何が起こったというのでしょうか。各地の市役所、町役場には離婚届けを握り占めた老若男女が詰めかけてパニック状態が起こっております。」


「今、ニューヨクと北京の特派員からも連絡が入りました。世界各国でも同様の混乱が起こっているようです」

 テレビではニュースキャスターがただ事でない国内外の状況をがなり立てていた。


「どういうことだ」


「『お札返し』を封印した。でも残念ながら『お札返し』封印は『お札』も封印する。つまり無効にする諸刃の剣って奴ね」

 いつの間にか姿を現した麗が答えた。


「オレはこんなこと望んじゃねえ。元に戻してくれ。頼む」

 亮太は麗にしがみついた。


「しかたないわね。いいわ、出て来て莉紗」

「もう有効にしたわよ『お札返し』」

 部屋の隅にあのブラックボデイスーツの妖艶な女が立っていた。


「この貸しは、倍にして返してもうらからね」


「これで元に戻った」

 麗は亮太に顔を向けた。

「ありがとう、助かった」

 亮太はほっと胸を撫で下ろした。


「それだけ、他に言うことは」

 麗は上目遣いで亮太を見つめた。


「理奈のことは諦める」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る