第9話 現代ダンジョンな夢
夢の中で電車でどこまでも行きたくなり、たどり着いた終点の海辺の街でふらっと小さな家を買った。
買ってから特記事項の一番下のところに備考:裏庭にダンジョンあり と書いてあるのに気づく。
家は小さな和風の家で、こんな家でダンジョンなんぞやと思ってみると、裏庭のちょっと脇のところにぽこんと直径15cmほどの竪穴が開いている。
なあんだなどと思いつつ数日、廊下の掃除や台所の掃除などをしていると、妙になめくじが多い。
出どころを探すと竪穴からどんどん現れている。
なるほどこれをみやびに言ったのがダンジョンということかなどと不動産屋のユーモア心に舌打ちしつつビール罠などでどんどん殺す。
どんどん殺すとどんどんでてくる。
最初は小指の先ほどのやつがいつの間にかバナナナメクジなどが混ざり、穴に熱湯を流し込んでやろうかと思った頃に陽気なファンファーレが流れて自らがレベルアップしていると気づいた。
とはいえだからどうだっていうんだという感じであり、特にステータスオープンが出来たわけでもない。
そして、どうやらダンジョンも(?)レベルアップしたらしいということがわかる。
次の日になってみると、なめくじとだんごむしの混成軍が裏庭に現れていた。
怒りに燃えて熱湯とビール罠などで対処するが、やはりこちらもエンドレスでおかわりが来る。
これはよほどのクソ物件ではなかろうかと考えを巡らせたものの、そこを除けばいい感じの西日の差す外に面した廊下と土間の台所があり、小さな洋間と和室を備えた実に風情のある昭和の邸宅なのだ。庭も広く、時として鹿などが現れ……待てよ、あれもモンスターじゃなかろうな。
ともかくとてもいい感じの文豪の別宅みたいなおうちであり、そこの資産価値をひたすら0に近づけてくれるのがダンジョンだというのならば享受するのみ。なにせ固定資産税が安い。そんなきもちで庭箒などで戦い抜くことしばし、なめくじとだんごむしにひたすら増えるイシクラゲ、大きめのアリ、かまどうま。げじげじと蜘蛛は味方なので丁重に遇する……などということをやっていると、竪穴のレベルがなんだか相応に上がったらしい。ある日茶の間に入ってみると、部屋のこたつでダンジョンマスターなる不審人物がくつろいでいた。
すわ不法侵入者と司法の手に頼ろうとしたものの、なんと街の警察は庭のダンジョンを承知で物件を買ったならそれは同居人であると無情にこちらに申し渡した。
とはいえダンジョンマスターならばダンジョンにいるべきではないのか。一万歩譲って同居人であれ、こちらの占有物でくつろぐ権利はない。そう考えて話し合わんと声をかけてみたところ、明らかに不審な影っぽいものが(たぶん未鑑定不確定状態だったのだ)薄れると聞こえてきたのはいかにも裏切りそうな好青年声。
「やあ、君が今の住人かい。君がせっせとダンジョンレベルを上げてくれたお陰でようやく僕も外に出てこれた、感謝するよ」
これはいけませんよ、あかんやつ、わかる。と物件を放棄することに即座に決めて回れ右したこちらの裾をがっと掴んでいやいやいやいやちょっとまってなどと宣う不審人物。
こたつとか数十年ぶりで!数十年ぶりで!!君が気に入らないようなら顔を合わせるときは姿を変えているからさなどと言われ何を舐めたことをと言おうと思った矢先にぼわんと煙が立ち、そこに鎮座していたのは実にいい感じのでかい猫であった。
でかいねこ。それもノルウェージャンとかああいうとてもいい感じのデカさの前足の太いねこだ。ひげも見事ながら毛皮も見事で、肉球がしっかりしたねこ。フフン顔も猫なら腹が立つこともない。私ははらわたがよじれそうなぐらいに苦悩した。
ねこはねこなのでしかたない。ねこがこたつを求めるなら与えるのが知的生命体としてのあり方。しかも意思疎通が出来る猫。私は猫欲に負け、とりあえずトイレの躾けは出来ているのかと問いかけたところ、なにやらとてもプライドを損ねたらしい。猫餌は食べないし猫砂もいらないと言ってくるでかい猫(仮)に出入りするときは雑巾で足を拭けと申し渡していると玄関に何やら来客がやってくる。
「こんにちは冒険者です」「こんにちは冒険者です」「こんにちは冒険者です」
冒険者を名乗る何者かたちは土足でどやどやとおうちの玄関を抜け裏庭を掘り返し虫を潰すなどの狼藉を働き始める。勝手にトイレは使うわ台所の電気ポットでお湯を水筒に入れるわあまりの自由っぷりだ。
厚遇していたげじげじさんたちや蜘蛛さんたちも根こそぎ退治されてしまい、何らかのドロップ品を持ち帰るために電気ポットを奪われてしまう。
怒り狂って雑巾を投げつけるなどし、座敷箒を振り回し逆さまに立てて狼藉者たちを追い返す。警察に連絡しても、またもやダンジョンであれば冒険者の立ち入りは適法であるとか言われてしまう。いったいなんでこんなことにと歯噛みしていると、でかい猫があくびをしながら言うのだ。
「ダンジョンレベルが2以上になるとダンジョン協会の地図に出るからねー、仕方ないねー」
まああれは新規に登録されたダンジョンを見に来た協会の調査員でしょ、低レベルダンジョンにそうそう人は来ないし大丈夫だよ、などと他人事じみて言うのでてめえがダンジョンマスターなんだろうと尻尾を引っ張りつつ詳しい話を聞く。
どうやらダンジョンでエネミーを誰かが倒すと同値の経験値が入りダンジョンも成長する。という。ならばナメクジには目をつぶるしかないのか、と悩みつつ、持っていかれてしまった電気ポットの代わりにティファールのすぐ湯が湧くやつを開封し台所に置くとダンジョンレベルが上がった。
あ、ダンジョンに設置物が増えてもレベルは上がるから、と笑う猫。ここもダンジョン一階層めの判定なんだねー、などと言っているところにレベル3ダンジョンと聞いて!などとやってくる冒険者を追い返す。
あかん。これは生活するだけで何かのレベルが上がる。
やっぱりこの物件売るか、などと算段し、話が違うよおーなどと言っている猫の鼻先を連続でつついていると、何故か町内会長さんがやってくる。
「インバウンド冒険者によってご町内商店街の売上を確保するために、ダンジョンまちおこしに協力してもらいたい!」
さもなくばうちの商店街はさびれて老人しか居なくなり街は税収もなく過疎になりひいては廃村……人々は都会に出るしか無く子どもたちは新しい街の環境に馴染めず不良に……そしてドロップアウトした結果大都会で搾取され……死……お宅が協力してくれなかったから……みたいなノリの町内会長さんをスルーしきれず引っ越し計画はあえなく頓挫し、なぜかそのまま商店街の商工会によるダンジョンまんじゅうや食べ歩き冒険者コロッケなどの試作会が始まってしまう。
私はいい感じの和風建築なのに……なんでダンジョンなんか……と嘆きつつまだ段ボール箱に入っていたお茶セットを出してお茶を入れだした。猫が笑い、またダンジョンレベルが上がった。
私は、せめて建物内はダンジョンだと冒険者の皆様に思われないように順路を作ろう、と心に決めた。
大体そんな夢。一本なにか書けそうな気がするのでメモ。
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