第三十七話「ありし日の日常10」


 口元に小さな笑みを浮かべ、タケシが宣言した。


「『異世界召還』を発動! 一般人トークンを最大で三体召喚する!! これらはエネミーカードとして扱う」


 金曜日。放課後。多目的ルーム。いつも通りの部活の光景だ。

 いや、いつもどおりではない。今日は、トールもいる。


 水曜日もだったけど、順調にトールは部員として定着し始めていた。

 そして、今日はついにルールを覚えたトールの、カードゲームデビュー戦。


「む……数は多いが、弱いぞ?」

「そう思うだろぉ? 確かにこの一般人トークンは最弱の戦闘値しか持たねぇ、だが俺の異世界転生チートハーレム無双デッキはここからが本領よ。行くぜ!」


 相変わらず、某デュエル漫画のように……というか、バァーン! と効果音の付きそうな別の漫画のようなポージングを取りつつ、タケシはさらなるコンボを告げる。


「まずは『ランダム転生』を使用! 自分がコントロールするエネミーを一体ゲームから除外し、コントローラーは札場からカードを五枚まで開示し、一番先に来たエネミーを特殊召還!! もちろん、除去するのは一般人だ。開示した残りのカードは捨て札場送りだがな!」


 パシーンと場に出されたのは『獣耳の武闘少女・カナコ』。攻撃力のとても高い、可愛らしいイラストのバニラカードだ。


 ちなみに、バニラカードというのは、特に特殊能力をもたないエネミーカードの事だ。


 高収入を歌う宣伝トラックとは無関係だ。


「続いて『バニラの宣伝トラックカー』を使用!! カードを二枚捨て、捨て札から一枚、任意のカードを手札に加える。また、札場の中から『トラック』と付くカードを一枚サーチして手札に加え、札場をシャッフルする」


 タケシが意外と頭の良いコンボを組んでいる……珍しい。これは一波乱あるか?


「『トラック転生』を使用! 自分がコントロールするエネミーを一体ゲームから除外し、コントローラーは手札から任意のエネミーカードを特殊召還! もちろん、除去するのは一般人だ」


 イケメンイラストの書かれた『エクストリーム勇者ボブ』を設置する。強いんだけど、やはりバニラエネミーだ。


「さらに! 高攻撃力のエネミー二体がいるため『チート転生』を発動! 自分がコントロールするエネミーを一体ゲームから除外し、コントローラーは札場の中から任意のエネミー一体を選んでサーチして特殊召還!! もちろん、除去するのは一般人だ」


 場に出されたのは『セクシーウィザード・アケミ』。妖艶な美少女のイラストの書かれた、恐るべき特殊能力を持つエネミーだ。


 なんと、最弱の三体が恐るべき強豪たちに変わってしまった!!


「さらに! 『チート転生』の効果でチート能力が付くぜ。対象は『エクストリーム勇者ボブ』! バニラエネミーに、捨て札場にあるカードの効果を能力として持たせる事が出来る。対象はこの『ハーレムモード』を使用! これは男性エネミーが一体のみで、かつ女性エネミーが複数存在する場合、その数に応じて対象となる男性エネミーの戦闘力が増強するって効果だ!!」


 なんと、たったの1ターンで完全なまでにコンボが決まってしまった!


 おかしい、四天王最弱のはずなのに……タケシ、成長しているなっ!?


「ターンエンドだ!」


 ほくそ笑むタケシ。

 いやいや、初心者にそこまでするなんて……大人げないよ……。



――そんな風に思っていた時期が、僕にもありました……。



「なるほど、俺のターンだな?」


 劣勢にも関わらず、トールの表情に絶望は無い。


 むしろ――。


「手札から『過ぎたる貧富の差への暴動』を使用。このカードは場に、相手のエネミーが、自身のコントロールする数よりもX体以上多い場合にのみ使用可能。札場、手札、墓地から『無敵の人ジョーカー』をX枚特殊召還する」


「『無敵の人ジョーカー』? 無敵とは名ばかりの最弱バニラエネミーじゃねぇか」


 確かに『無敵の人ジョーカー』の戦闘値は、他のエネミーと比べて低い。一般人よりは遥かに強いが。


 だが、実はそれも使い道。確かにこの状況でアレを引ければ――。


「『無慈悲なる時の流れ』を使用。札場を5枚覗き、任意のカード一枚を得て、残りを捨て札場に送る」


 札を回してキーカードをサーチする。


 これでアレを引ければ……!


「むぅ……『無慈悲なる時の流れ』を選択し入手、再度使用」


 引けなかったか。更にカードを回すトール。


「……来たか」

「何ィ……?」

「『持たざる者の爆発ジョーカーズ・デスパレード』を選択。即座に使用!!」

「え、何それ?」

「自分がコントロールしている対象となるエネミーカードより戦闘値のいずれかが3倍以上高いエネミーが相手の場に存在している場合のみ使用可能。自分がコントロールするエネミーを一体除去する事で対象となるプレイヤーに戦闘値を5倍したダメージを与える。このカードは同名のエネミーであれば何枚でも除去し、その効果を追加で得られる」

「ん? ん~~?」

「『無敵の人ジョーカー』の戦闘値は400。五倍して2000だ。それを三体まとめてぶち込む」

「ちょ、おま、待っ――」

「開始生命点は4000だから。仮にアケミの能力で発動前に一体除去しても……ちょうど死ぬね」

「と、なるそうだが。あっているだろうか」

「合っている、正解だ。このゲームはわりとこういった一撃死が飛び交うから……まぁ、日常だな」

「ぐぬおおおおお!? この、俺がぁぁぁぁぁ……!」


 ボスキャラがゆっくり消えていくイメージでタケシが倒れこむ。

 相変わらずエンターテイナーである。


「ふ、アイツがやられたか」

「まぁ、タケシは所詮、四天王最弱だからね」

「そうそう、所詮は数合わせ。真の四天王を甘く見ない事ね」

「よぉし、じゃあ次はボクがいくね☆」


 などと、ありがちな悪役ごっこに繋がるのであった。


 ちなみに、これに対するトールの応えは……。


「ふ、俺の戦いはこれまでだ!」

「これまでなんかいっ」

「ここからじゃないんだね」


 きちんと上手く落としてくれるのであった。


 たった四日のプレイングで、トールはあっという間に強くなった。


 もう新しい四天王の座は夢じゃないかもしれない。


 まぁ、それはさておいて。



――嫌な言葉が聞こえてしまった。



 扉の前を通ったクラスメイトだ。


 トールに向かってだろう。


 こんな事を呟いていた。


「アイツも終わったな」

「だな、剣道やめてこんな所で遊び続けてさ」

「俺、あいつのファンだったのに。見損なったよ」


 うるせぇよ。

 トールはな、終わったんじゃない。変わったんだ!!


 何があったのかは知らないけど、きっと何か辛い事があって、それで新しい道を選んだんだ。

 何も知らない奴らが勝手に終わらせるんじゃねぇ!!



「どうした? ケイト」


 憤る僕に、トールがいぶかしげな目を向ける。


「ん? なんでもないよ。さぁじゃあ時間も時間だし、メインディッシュといこうか」


 こうして、僕たちはTRPGを始める。


 今度は冒涜的な恐怖で有名なコズミックホラーな奴だ。


 さぁ、何人が生き残れるかな?



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