第十七話「天上の遊戯4」
さて、いよいよキャラクター紹介のラストを締めるのは!
期待の新人、神倉徹氏が繰り出す……。
なんだろね、新人が一番まともなキャラ作成するのって。
ユメリア・カミクラール。15歳。
人に創られた生命体。ホムンクルスの少女。魔法戦に特化している。
自らの正体と、生き別れの姉妹機を探すために冒険者という仕事を選んだ。
至極まともな背景である。
ファンタジー小説の主人公とかサブキャラ的な、ありがちだけど奇をてらっていない、だからこそ安心できるクオリティが確かにそこにあった。
こういうのでいいんだよ……。
ところで、意外にも真面目そうなトールが女の子キャラを作るという選択をした背景には、実はこんなエピソードがあるのだった。
――ちょっとだけ前のお話。
「ヒロインが足りねぇよ! ヒロインがよぉ! これじゃあ萌えねぇぜ!」
一人猛るタケシがそこにいた。
無視してもよかったんだけどさ。無視すべきだったんだろうけどさ。
そこはほら、友達だし……ね?
彼をこんな風にしてしまった罪悪感とかもあった訳で。
しょうがないから僕のディエス君がカルミナちゃんになってしまった訳で。
けどまさかね、その矛先がトールにまで向かうとは……。
「私は嫌だからね? “女の子らしい女の子~”なんてもう劇部とかで散々やり飽きてるから。死んでもごめんだわ。鳥肌立つし」
「く……せめてあと一人、あともう一人くらい萌えヒロインが欲しいよなぁ……な!!」
そこで同意を求められても……。
もう二人もいるんだし良いじゃん。
と言い掛けた所で。
「お? 神倉っちのキャラはウィザードですかい? こりゃあいい!」
何が良いのか、まるでお宝でも見つけたような瞳で擦り寄るタケシ。
「美少女キャラ、やりやしょうぜ?」
耳をふさぎたくなる様な悪魔の誘惑を吹きかける。
「む、むぅ」
とまどうトールだったが。
「そうね~。一度は経験してみるのもありなんじゃない? YOU、やっちゃいなYO!」
矛先をそらすべく、麻耶嬢まで駄目押ししだす始末。
結果。TRPG初体験の新人に、何の慈悲さえもなく作らせたのが、このキャラなのだった。
――しかも。
「萌えといえばやっぱ属性だよな」
「そうね。魔法使いなら、無口属性かしら」
「それだけだと捻りが無ぇな。もっとこう、新ジャンル的な……」
あまり使わない方が良い頭を捻りながら口にしたタケシの言葉は。
「よし! 無口クール系腹ペコロリなんてどうよ!?」
「え~、ちょっと属性盛り過ぎてない?」
「いや、今時はこれくらいモリモリに盛ってる方が今風だし受けが良いんだって」
「まぁ、確かにそういう風潮はあるような気もするけど」
「……そうなのか?」
こうして……。
「……みんな……よろしく……くっちゃくっちゃ……もぐもぐ……」
真顔で干し肉をむさぼり続けるというシュールな新属性キャラが誕生するのだった。
だがしかし――奇跡はそこで舞い降りた。
「ふむ。では種族を人間からホムンクルスに変更し、エネルギー供給が過分に必要なため常に干し肉を食べ続けている……という事にしたいのだが」
「ほう、確かにそれなら無口なのも、常識を知らないせい、という点で説明がつくな……」
「ならば、干し肉はそれなりに値段がするからな……毎日若干の所持金消費が発生する。これは軽度の弱点に相当する。その分の
「では、そうだな……
この時の選択が、後に大きな奇跡を起こす事を、その時の僕たちはまだ知らなかった。
――で、さっきのシーンに至る。
「……本当に初心者か?」
あのクールさが売りのアキラでさえ若干驚きの表情を見せる程。
それほどに、トールの作り出したキャラクターは隙が無かった。
TRPG初心者である事をまるで感じさせない。
ある意味で到達点ともいえる領域に達していると言っても過言では無い程だ。
「
「
「限りある潜在力を無駄なく駆使した、バランスの良いスキル取得だな」
「取得スキルに一切の遊びが無い。無駄の無い、本当に隙が無い構成だよね」
相手の能力を見抜き、弱点を調べて攻撃力を上昇。
あげく高威力の魔法を高確率で直撃可能。
貧弱な耐久性は、1シナリオ1回制限使用時にHPMP半分消費スタン放心麻痺のペナルティで取得した反射防壁でカバー。
「うん、どこに出しても恥ずかしくない立派な火力砲台ね」
「無い部分を補おうとしたのだが。これでよかっただろうか?」
「パーフェクトだ」
かくして、比較的TRPGのビルドに関してはうるさげなアキラがべた褒めせざるをえない究極ビルドの一つがここに完成する。
「その分脆いから……みんな守ってね……もぐもぐ……くちゃくちゃ……」
ネタキャラとしても申し分無い所がもうね。
しかも容赦のない無茶振りを受けてなお、この結果だからね。
これでTRPGが初めてだなんてっ!
神倉徹。怖い子っ! 恐ろしい子っ!
そりゃあもう趣味で偏りまくったどこかの二名様とは比べ物にならないレベルだ。
頭の良い人って、何やっても凄いんだね……。
「ゲーム的有利と世界観におけるキャラ背景の合理性の融和……双方が両立する様に、尚且つパーティバランスまで考慮したスキル構成、
アキラが何か語り始めていた。まるで究極至高の料理を食べた後の味○か海○雄山の如く。
「それに引き換え、お前らは……」
「ふふぅ~ん」
「まぁねっ」
「褒めるなよ」
「褒めとらんっ!」
相変わらずなカオスっぷりである。
まぁ、それでこそ我が部とも言える。
「や・ら・な・い・か……」
「ウホッ……ま、麻耶ちゃんとだったら……ボ、ボク……」
唐突に、無理に作った低い声で謎のポーズを取りながらノリノリで演じる麻耶嬢。
「熱い吐息がかかるような至近距離で相手を見つめながら、対象の尻をむぎゅっと掴みつつ囁くように耳元で追加の神言を唱えるっ。オーウ、ケレ~ル!」
麻耶嬢がなんかやってらっしゃる。
回復呪文を強化するための限定条件らしい。
「アッーーーーッ!」
謎のノリで返すリョウ。
本当、良いのか? 彼女がこんなで……。
「麻耶にゃんを守るために、僕がんばるよっ」
「涼きゅん」
「麻耶にゃん……」
ひしと抱きしめあう二人。
これで良いらしい。
こうして、五人の奇妙な冒険者が完成した!
その果てにあるのは栄光か挫折か、はたまた死か!
それはダイスの目とゲームマスター、つまりは今回のゲームを統括するアキラだけが知っているのであった。
こんなパーティで大丈夫か?
「……一番いいのを頼む」
そこには、苦悩しながら敵データを修正するアキラの姿があるのだった。
――ちなみに、一番女性キャラをやらされそうなリョウがそれを免れたのにはちょっとしたエピソードがあったりする。
「っていうかさ。どうせだし、野郎は全員女子キャラやって、女子が野郎キャラやるってのはどうよ?」
「え~……じゃあさ、涼きゅんは可愛いから女の子枠でいいよね?」
「え゛?」
さすがのリョウ氏もその言葉にはフリーズする。
「可愛いからいいでしょ?」
数瞬の思考の後、満面のスマイルを浮かべながら無言で親指を立て了承するタケシの姿がそこにあるのだった。
……こうして、複雑な感情を心の内に秘めながらも、リョウの男性キャラ作成はかろうじて許されるのだった。
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