第七話「ありし日の日常6」
ところで、いきなりくだらない疑問なんだけどさ。
……男の娘と女子のカップリングは百合に入るのだろうか。
……。
無いな。
はえてる時点でアウトだ。
いや、だが待てよ?
とってしまったらどうなるんだ……?
これはもしや、革新的ともいえる新たなカップリングジャンルへの難題なのではないか?
……。
無いな。
まぁ、ググれば一発で解決する問題かもしれないけどさ。
などと僕が無駄に哲学的な疑問――女装子や男の娘はともかく、とったら百合に入りますか? 問題――についての哲学的思考実験を開始そうそうにぶん投げて文明の利器に頼ろうとしていた頃、アキラは別のことに疑問を持っていたようだった。
「ふむ……」
鋭い視線をリョウの飼い主こと麻耶嬢に向けるとアキラは一言こう言った。
「しかし、この惨劇を見越しておきながらお前がリョウを置いて一人で来るとはな」
「ふぇ?」
余りに酷い弄ばれ方をしたリョウの姿に、アキラが哀れみの目を向ける。
……本人は全然気にしてないようだが。
キョトンとした顔で水筒のお茶か何かをクピクピ飲んでるし。
「いつもなら二人でさっきのようにやたらベタベタとイチャ付きながら入ってくるはずだからな。少々気になった」
「そりゃあ私たちだって発情期の猫じゃあるまいし、四六時中一緒って訳じゃないもんね~」
「ね~」
互いに見つめあいつつ首をななめに傾ける二人。
「そりゃあ……ずっと一緒にいられたらどれだけ幸せかって話だけどさ~」
後ろからよく見てみたら、リョウの長い襟足が無理やり三つ編みにされていた。
演劇部の女子連中にやられたのだろう。麻耶嬢もそれに気づいたようだ。
器用に編まれたリョウの髪をほどき、鞄から取り出したピンクのリボンでさりげなくサイドテールヘアへと修正する。
なんという事をしてくれたのでしょう。
……リョウがさらに可愛くなってしまった。
「これでよし、と」
「ありがとー」
それでいいのか。リョウよ。
「よもや倦怠期かと思ってな」
『ないない、それはない』
アキラの一言に、リョウと麻耶嬢のみならず、タケシと僕まで言葉がかぶっていた。
「ふむ……」
まぁ、アキラが疑問に思うのも当然である。
飼い主がペットに対してするように、猫っ可愛がりっていうくらいにベッタリと、授業時間外であれば終始ベッタリな二人がだ。珍しく別の時間に来た訳だから、何があったのかと思うのも仕方ない事だろう。
ましてや、付き合いだしてまだ一年も経っていないアツアツなお二人だ。
いくら男として見ていないように見える謎カップルな二人とはいえ、悪戯猫こと同級生の女子が山ほど放置されている演劇部というフィールドにリョウを置き去りにするなんて、狼の群れの中にわざわざ可愛い最愛のペットを放り捨てて帰るようなもの。
僕だって、喧嘩かな? とか場合によっては思ってしまってもおかしくないシチュエーションだった。
あんま気にしてなかったから普通にスルーしてたけどさ。
「いや、私だってそこまで狭量じゃないし、っていうか束縛とかそういうの、したくないし」
中々に良く出来た彼女さんである。
「リョウにだって自由にする権利はある訳じゃない?」
まったくである。
世の中に存在するごく一部だと思いたい束縛ばかりして男の自由は奪うくせに、いざ自分の方が束縛されるとやれハラスメントだのなんだと騒ぎ立て女仲間同士で被害者面した情報を周囲へと一方的に垂れ流し社会的に殺す策略で男の人生を台無しにする、もし結婚なんぞしようものなら共働きでもないのに給料を偉そうにふんだくりやりくりと言う名の下、小遣いと言う小額の自由な金のみを渡し、自身は外で友達と豪華なランチを食べる癖に男の方は500円玉のみで食べろと食費まで制限するくせに自身の服やアクセサリーはブランド物であふれ返る程に豪遊を尽くし、化粧や美容には無駄に金を費やしもし文句を言おうものなら「いつまでも綺麗でいて欲しいでしょ?」「必要経費だから」「女は大変なの」などとのたまい、男の携帯電話を覗き見るのは当たり前、男に対しては管理する癖に自分がやられるとブチ切れる、理由は「男は浮気するから」などと勝手に決め付けておきながら、もし浮気する一部の悪女に関して苦言をぼやこうものなら鬼の首を取ったように「女だからって全部一緒にまとめないで」などと自分の事は棚上げる始末、しまいにゃ実際に浮気するのはその女の方だったりして、あまつさえその浮気の原因は寂しがらせた男の方に問題があるからだなどと開き直り、男の側が汗水垂らして仕事に専念してようとそれが悪いと罵るくせにいざ家庭を顧みていれば掃除の邪魔扱いしたり対価として昇進を捨てた結果である安月給に関して愚痴愚痴とぼやき「お隣の誰誰さんのとこは」などと周囲と比較して少しでも近い相手に対してマウントを取りたがる常に自分の事は棚に上げ被害者面して浮気の証拠は見せずにすでに次の男を見つけた状態で離婚を突きつけ、もしくはあえて嫌な人間として振る舞い暴力をふるわせるか向こうから浮気をするように仕向け探偵を雇い証拠をつきつけ一方的に死ぬまで、いや死んだとしても両親からさえ離婚慰謝料をむしりとる悪質ビジネスを行い更に周囲に悪い事実のみをばら撒いて自殺に追い込む事を生きる目的にでもしているかのような
見習えるような精神を持っているなら上記のような生物にはそもそもなっていないだろうが。
それはさておき。
「それに私だって一応、手伝うって言ったんだけどさ……」
麻耶嬢いわく。
『ここはボクに任せて……! 麻耶ちゃんは部室に向かうんだ!』
『そんな、涼君を置いてなんていけないよ』
『別に、全て終わらせてしまってもいいんだろ?』
『涼きゅん……』
『
『涼くーん!!』
といった茶番劇があったらしい。
多分、格好つけたかったんだろうな。
なんか色んなアニメや漫画の死亡フラグがてんこ盛りに詰まってる気がするけど。
リョウなりに、必死で彼女に良いところを見せたかったのかもしれない。
なんだかなぁ。
「そう言われちゃったらさぁ……もう何ていうか、その力強い背中に逆らえなくて……」
頬を朱に染め、恥じらうふりをしつつ、麻耶嬢は視線を斜め下へと向ける。
「まぁ、何と言いますか……その、ぶっちゃけ面倒臭そうだったし、抜け出してきました」
「おィぃ……」
ぶっちゃけやがった。リョウ、お前の飼い主最低だぞ。
だが、愛と言うものは盲目なようで。
すでに飼いならされてしまった家畜状態のリョウにとっては最高の飼い主様のようで。
「麻耶にゃん……」
「涼きゅん……」
見詰め合う二人。
相手の悪い部分さえ含めて許容する。
善悪さえも凌駕して、例え世界の全てを敵にするほどの事になろうとも、損得勘定を無視して相手の全てを受け入れる。
それが、愛なのだろう。
「そんなとこも好きー!」
「涼きゅ~ん」
かたく抱きしめあう馬鹿ップルの姿がそこにあるのだった。
……羨ましくはあるんだけどさ、さすがにああはなりなくないよね。
「アレだな。ツッコミ所満載、っていうか……」
「なぜそこで死亡フラグを狙ったかのように乱立させるのかがはなはだ疑問だな」
「てへ☆」
「格好良かった。超萌えた」
「ついでだ、パインサラダにステーキも添えてやれ」
「やったー、これでもう何も怖くないね」
いや、アンタらどんだけリョウを殺す気なのさ!?
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