第六話「ありし日の日常5」


「と言う訳で、ちゃんと終わらせてきたよー。麻耶ちゃーん」

「うん、ご苦労さま~。ありがとうね~涼きゅ~ん」

「わ~い♪」


 抱き合う二人。

 リョウの頭を大型犬にするように撫でまわす麻耶嬢。

 はたから見ると飼い主にジャレ付く小動物のようにも見えるのだが……。


「ふむ、お前が遅れるとはな」

「ていうか、一緒じゃないっていうのも珍しいよね」

「演劇部の用事だったんだもんね~。仕方ないもんね~」

「ね~」


 相田麻耶、倉敷涼、二人は演劇部とこの同好会を掛け持ちしてたりする。



 そして、なんと二人は付き合っている。



 俗に言うリア充という奴だ。


 正直うらやましい。そしてけしからん。末永く爆発しろ。


 おのれぇ……。


 嫉妬の炎がメラメラと心の奥底で仄かに燃え上がるような気がしなくも無い。


「ん? 何? ボクの顔に何かついてる?」

「いや、別に」


 まぁ、顔にはナチュラル系だけどややガッツリめなメイクが付いている訳だけど。

 そこはもう潔くスルーしておこう。


 っていうか、近くでよく見ると、何か今日のメイクはいつもより若干雑で舞台用っぽいな。



 これ多分、演劇部の誰かにやられたんだろうなぁ。



 わかると思うけど、リョウは飼い主こと恋人関係にある麻耶嬢以外からもおもちゃにされている。

 主に女生徒から。



 良い意味で可愛がられているのだが……。



 まぁ、飼い主のいない間に軽い悪戯がてら遊ばれて来たんだろうなぁ。



 ただ、リョウを男として見ているのは飼い主である麻耶嬢だけである。

 ……いや、もしかしたら、恋人であるはずの彼女でさえ男としては見ていない可能性もワンチャンある。


 なぜなら性質の悪い事に、飼い主、もとい彼女様の趣味のせいでリョウの私服が最近なんだかすごい事になりはじめているからだ。


 なんというか、ものすごいオシャレというか……。


 最初は色合いが淡い感じの服が多くなり始めて、徐々にピンクとか可愛い系の色合いが増え始めたと思ったら、今度は帽子などの小物や重ね着を駆使したサロン系へと至り……今ではなんというか、パリコレっぽい感じのモード系に染まりつつあるのだ。


 ここまでなら、彼女のおかげで脱オタファッションしてオシャレに目覚めたんだね、で済む話なんだけど。


 最近ではウィッグまで付けはじめて私生活でも余裕でメイクしているみたいだし、ちょっと前までは上着を腰に巻くくらいだったんだけど、今ではなんかスカートみたいなオシャレ布を腰に巻き始めていたりするしで、徐々に中性的というか、服装がフェミニンなゾーンへと染まりつつあるのだ。


 初めて会った頃はもっと普通に野暮ったい服装というか、チェックのシャツにケミカルウォッシュジーンズといったいかにもオタク臭漂う服装だったり、リベット付きのレザージャケットに黒づくしというオラついた世紀末風味の似合わない格好だったり、カラーギャングかと突っ込みたくなるような赤オンリーのストリート系ファッションだったり、これからサバゲーですか? と尋ねたくなるようなガッツリミリタリー系の服装だったり、まだ男らしさを健気にアピールしていた気がするんだけどなぁ……。


 このまま進むと次はビジュアル系だろうか。

 ゴシックファッションからやがてゴスロリに至り、果ては甘ロリファッションに……!?


 来年会ったらガチでナチュラルに女装とかしてそうで怖い。


 まぁ、似合うだろうから別に良いんだけどさ。



 もういっそとっちゃえよ。



「それで、今日は何するの~?」

「何したい~?」

「麻耶ちゃんで遊ぶ~」

「もう涼きゅんたら~」

「麻耶にゃんにゃ~ん♪」

「涼きゅんきゅ~ん♪」

「麻耶にゃにゃにゃ~ん♪」

「涼きゅきゅきゅ~ん♪」


 見つめあう二人。そして……。


「麻耶にゃんちゅ~」

「涼きゅんチュ~~」



 猛烈な勢いでいちゃつき始め、二人だけの世界へと……。



「オィィ!! それ以上は家でやれ!!」


 行かせはしなかった。

 さすがのアキラもこれにはキレた。


「てへぺろ☆」


 けど、そんな突っ込みにもめげず、輝かしいほどに屈託の無い笑みで微笑むリョウ。

 この顔を見てしまうとなんというか……。



 こいつらもう見た目百合みたいなもんだしこれはこれでアリなのかなぁ、と思ってしまう僕もいるのだった。




 これで男の娘じゃなければマジ天使なんだけどね……。



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