第13話 神殿



 王都の中央には巨大建造物が3つある。

 

 一つはもちろん王宮だ。

 広大な緑の芝生に囲まれており、真っ白な建物の屋根は鮮やかな青色。4階建て相当で、横長の宮殿といくつかの尖塔のある建物が四方を取り囲んでいる。


 二つ目は煉瓦造りの赤い建物。

 こちらは魔導学院。本館は円柱状でそこから四方に別館が4棟ある。それぞれの棟の間には演習場、実験場、宿舎、森林がある。


 そして最後が神殿。

 白い石造りの簡素な建物だが、その柱の一つ一つに神を象った彫刻が施されている。敷地内には孤児院、治療院、法院、神学校が内設する。


 本殿の門の前には重装歩兵が二人立ち、入場者を検める。

 中に入ると正面に神台―巨大四角い石柱―がありその上に社が建っている。御簾で遮られ中は見えないが、地上から社に向かって祈ると神々の声が御簾の奥から聞こえるという。神台の下は花や硬貨、宝石で埋め尽くされている。願うものが対価や感謝の気持ちとして置いていくものだ。

 この神台の周りに神官と聖騎士が立ち、正しい道を説いたり、相談に乗ったりしている。




「ようこそいらっしゃいました。システィーナ姫、ロイド卿、そして紅燈隊の皆さま」


 そう神台の周りに集った騎士たちを出迎えたのは、先日ロイドに神殿に来るよう勧めた大神官である。


静寂の中、甲冑の音が響き、物々しい雰囲気に包まれる。祈りに来ている者たちは早々に祈りを切り上げその場を後にする。


「大神官様、お騒がせして申し訳ございません。お言葉に甘えまして私の臣下に付きまとう汚名をそそいでいただきにまいりましたわ」


 姫が告げると大神官は頷きおれを神台の前へと促した。


 後ろにはマイヤ卿やオリヴィア卿他、紅燈隊に所属するほぼすべての隊員が来ていた。中にはここに来るのを渋る者もいたらしいが、姫がオリヴィアをひっぱたいたのが効いたのか、あまり強く出る者はいなかった。


 騒動のきっかけとなったオリヴィア副隊長は内輪の席ということと、マイヤ卿の嘆願もあり警告で済んだ。ただしそのを金冠隊のヴァイス卿と金華隊のリア卿にされて大泣きして隊の宿舎にもどったらしい。可愛そうかとも思ったが、陛下にあれだけのことを言わせて罷免にされなかっただけでも幸運だ。

 まぁ、陛下も強かに酔っていらしたから、そのせいかもしれないが・・・


 まだ十七歳の女の子、小柄な彼女が騎士に、しかも副隊長になったというのは並々ならない努力があったはず。

 馬鹿にされたくない、なめられたくない、努力をあざける者は許さない。

 その必死さによる若さゆえの過ちということで、おれも許した。

 

 ここで疑いをハッキリ否定して、演習に参加して、しっかりコミュニケーションを取ればいい。

 ただ、彼女・・・副隊長なのに姫の護衛を辞退してるし、ずっと隊の後ろに居て話す機会がない。

 

 時間が掛かりそうだ。


(元々誰とでも仲良くできるほど器の大きな人間じゃないしな・・・)


「この神台を中心として神殿内には清浄な力ーーー神気が満ちています。神気を依り代に神々は我々にお声を届け、傷を癒し、魔を払い下さるのです。これからロイド卿には魔を払う術を施します。それに掛からなければ一先ず魔の類であるという疑いは晴れます」


 結界魔法。おれも初めて見る。魔、邪なものを阻む壁を造るというがどんな原理なんだろう。


「神々の恩寵、清浄なる力に祈りしは、不浄なるものを阻む四方の壁、悪しきものを捕らえる篭、善良なるものの安息の場、清浄なる盾、我が祈りに応え、ここにその意を示し給え・・・『聖域』!」


 詠唱ながっ・・・!

 

 静かに詠唱し終えた大神官が手をかざすと淡く発光するサークルができた。そのサークルは大神官、姫、紅燈隊の面々とロイドを囲んで立方体になった。


(特に変化は見られないが・・・何となくマイナスイオンが出てる?ような気がしないでもないな・・・)


「なぁ!」


「うぐっなんか息苦し・・・」


「これはッ・・・・」


「え?」

 

 結界内で皆が呻き始めた。一人や二人ではなくおれ以外全員だ。小姓や従騎士のほとんどがその場にうずくまり、苦しんでいる。マイヤ卿はさすがに持ちこたえているが難とか耐えているといった感じだ。

 そして姫様も息苦しそうにしている。


(マズい・・・姫様をここから出さないと・・・大神官は何をしたんだ?)


 大神官の方に目をやると結界を造った本人が失神していた。御付きの聖騎士二人も倒れて起き上がれないでいる。 

 

(なんで? 発動に失敗したのか・・・しかも本人が意識を失っても消えないということは込めた分の神気がなくなるまで持続するタイプなのか。おれはどうして無事なんだ・・・いやそれより、この壁を何とかしないと・・・)


「ロイ・・・ド卿・・・姫様を・・・」


 マイヤ隊長・・・


(だれか他の神官を?)


いやこの中から声が届くかわからん・・・姫が来たことで他の者たちは皆遠慮して出て行ってしまった。


(考えろ・・・)


 原理はわからないが魔法の一種なら対抗手段は魔法だ。


神聖級魔法をレジストする。大神官とのパスは既に切れているはずだからおれが神気でパスを繋げられれば制御できるはずだ。

 だが、どう頑張っても体にあるのは魔力だ。


(というか神気は体内に流れているものなのか?)


 魔力を結界に飛ばしても打ち消されてしまう。というよりこの中では魔法の制御が上手くできない。


「クソ・・・どうすれば・・・」


「バカもの! 腰のものは飾りか!」


 突然背後から怒鳴られて驚いて振り返った。

 そこには結界が張られる前にはいなかったはずの女が立っていた。


「さっさとこの『神域』を斬れ! 人間にはそう長く耐えられんぞ!」


「え? でもこれを斬る?」


(おれの剣の腕で魔法より高度な術を斬るというか? そもそも誰だこの人・・・いやもう考えてる暇はない!)


 剣を引き抜き振りかぶった。


[ガキィィン!]


 やはり全く歯が通らない・・・!


「落ち着け。君は今自身の神気で全身を無意識に覆っている。それを剣の先まで延長するんだ」


 おれはもはやそのアドバイスをそのまま受け入れる他無く、言われるがまま身体の周囲に意識を向け、剣を含めた全身を覆うイメージをした。


「よし、それを突き立てろ! 早く!」


「はぁぁ!」


 おれは剣を結界の壁に突き立てた。すると今度は弾かれず、ほんの少し切っ先が壁を貫いていた。


[パキキ・・・!]


 ヒビが広がっていく。


「やれやれ、ヒヤヒヤしたがまぁ何とかなったな」


 崩壊が広がり結界が完全に消失した。


 その瞬間、解放されたかのように皆正常に戻り、呆然と互いに顔を見合わせていた。マイヤ卿はすぐさま姫に駆け寄るが、姫も特に異常はなさそうだった。

 

 それを見て汗がどっと流れ出した。まさか初の仕事がこんな突然くるとは思っていなかった。時間にして一分もなかったが、とても長く感じられた。


「今のはなんだったの? 私たちは不浄ということ・・・?」


「いえ、おそらく大神官が〈神聖級魔法〉の行使に失敗したのでしょう」


「ロイドちゃんは平気だったの? それと誰かと話していなかった?」


(そうだ、あの人・・・)


 辺りを見渡してもどこにもいなかった。だがおれはあの人が何者なのか何となく察しが付いていた。


 あの人は『神域』と呼んでいた。そして人間には耐えられないと言っていた。つまり、人ではないとてつもなく神聖な存在ということになる。


「うっぐぅ・・・」


 聖騎士に介抱されようやく大神官が目を覚ました。

 

「大神官様、大丈夫ですの?」


「これはひ、姫様・・・申し訳ございません・・・私はどうやら・・」


「大神官様・・・ひょっとして今の神聖級は『神域』という結界魔法では?」


 おれは意識のはっきりしていない大神官に単刀直入に聞いてみた。


「なっなぜその魔法のことを?・・・いえ、私にそんな力があるはずは・・・」


「大神官様、ひょっとして神様降臨させました?」


 意識がはっきりしたようなのでさらに突っ込んだ質問をしてみた。秘匿だろうがこんな目にあったのだから聞く権利はあるはずだ。おれの怪しい質問にざわつく皆。そして顔がじわじわとすさまじい形相へと変わる大神官。


「見たのですか!? 神を? 一体どの神が・・・いやどうして『聖域』が『神域』に!?」


「いえ、聞きたいのはこちらの方です。いくら大神官といえども、姫を危険な目に逢わせたのです。説明していただきます」


 マイヤ卿は静かにめちゃくちゃ怒っている。それを察したのか考えこむ大神官。それを庇うように聖騎士が前に出る。


「大神官様に敵意を向けるのは、やめていただこう。これは事故だ。いたずらに話を大きくすることは王宮と神殿の対立につながりかねんぞ」

 

 しかし多勢に無勢だ。


「そっちが姫を危険にさらしておいて命令する気?」

「敵対したくないなら説明しなさい!」

「そうよ! 神官だからって許されないわ!」

「貴様ら! 大神官を前に不敬であるぞ!」

「不敬はそっちでしょ!」

「ええい!」


 数で優る紅燈隊に口で勝てるわけがなく、聖騎士は手に持っていた槍を構えた。


「よ,よさないか! 武器を向けるなど・・・姫様、神々に誓って謀反の気などございません。過ちに対しどのような裁きも受けます! どうか私に弁明の機会を!」


 大神官が必死に場を治めようとするとマイヤ卿も紅燈隊を下がらせた。神殿内で刃傷沙汰などそれこそ大問題だ。しかし誰も傷を負っていない今なら大神官と姫の間で話が付けば穏便に済むだろう。大神官に悪意がなかったのは分かっている。


「わかりました。私も知りたいのはなぜあのようなことが起きたのか、ということです。お話は別室の落ち着いたところで行いましょう」


「ありがとうございます。ではこちらへ」

 

 別室の講堂のようなところで皆席に着く。

 皆そのころには冷静になり、ことの大きさを実感し始めていた。

 

 大神官の『聖域』を超える『神域』に神が降臨したかもしれないのだ。みんな意識が朦朧としていたが、おれに指示をして助けてくれた誰かが居たのは分かっていた。もし本当にそれが神ならば一大事。歴史に記される程大きなことだ。

 

 皆の意識はその何者かと話していたおれに集中した。それを察し、姫が問う。


「ロイド・・・卿、あなたが見たのは本当に神でしたか?」


(いやおれに聞かれてもなぁ)


 神気の使い方を知っていたし、神気を無意識に使っていることを知っていた。でもそれだけで神だということになるのだろうか。おれと同じ、神気を使える人間という可能性もある。


 とりあえず『記憶の神殿』から先ほどの映像を取り出し鮮明に思い出した。


「私には何というか神様というより普通の人族の女性に見えました。金髪の美人さんでしたよ。腰に剣を携えていました」

 

 金髪、金眼、たれ目のどことなくまったりした顔立ちの女性だった。歳は20過ぎくらい。声は少し低めで宝塚みたいだった。ただ簡素な紺色の服にズボンと長靴姿で地味めの格好だった。装飾がされた腰の剣だけが異彩を帯びていた。


「おいそれって・・・」


「まさか嘘に決まってるわ」


「でもさっきのは本当に・・・」


 周囲がざわつき始めた。


(皆神々の特徴とか全部覚えているのか? 結構な数いたと思うが)


 やがて場がシンとなり、皆の視線がおれに集中した。


(な、なんだよぉ・・・嘘はついてないぞ・・・)

 

「ロ、ロイド卿・・・曲がりなりにも剣を持つものなら知っておいて下さい。その方は我々の神ですよ?」


(なんだ? おれが知らないのが恥ずかしい感じなのか?)


「ロイドちゃん、女の神で剣を持つのは一柱だけなのよ。かつて英雄として歴史に名を刻み、のちに神格化された剣神、システィナ。私の名前の由来でもありますわ」


「システィナ・・・ああ・・・」


 この世界は何度となく〈魔王〉が現れそれを勇者が倒してきたとされている。歴史上、魔王とされるのはただの大規模な戦争の敗者だったり、革命を起こして世界を変えた偉人だったり、世界規模の疫病を指したりと色々だが、五百年ほど前に現れた〈緑の魔王・獣王〉は獣人のあらゆる部族をまとめ上げ、その他の種族に攻め込んだ。中央大陸全土を戦火に巻き込んだ至上最大規模の大戦といわれている。

 それを阻んだ英雄の一人が人族の若き女剣士、システィナ。


 魔法を使わず剣技のみで、身体能力で優る獣人の軍勢と渡り合い、獣王の首を取った。それ以来女性戦士の地位が上がったとか・・・


「・・・私が作った結界が本当に神を降臨させた・・・ありえん・・・まさか・・・!」


 大神官は何かに気づいたのかこちらを見つめ何か確かめている。


「〈神聖級魔法〉を使うための神気とはこの神殿が建つ場に生まれる力なのです。我々は普段己にその神気を宿らせ、神々に力の行使をお願いすることで魔法として発動させます。しかしその力は限定的です。場に満ちた力を借りるだけですから。本来この神殿の神気のみで『神域』は作り出せません。せいぜい『聖域』を造り、そこに神託をいただくくらいが限界でした。しかし結果的に『神域』ができた。ではいつもと何が違うのか? それは明確です。あなただ、ロイド卿・・・」


「は?」


(おいこの似非えせ神官! なんでおれに責任転嫁してんだよ! それでも大人か!)


「大神官様! いくら何でも・・・」


「いえ! すいません! 今回のことの責任は私にあります。ロイドが悪いということではなくてですね・・・ロイドには神殿一つ分以上の神気が宿っているのではないかということです。『神域』は神の領域。そこで平然と立っていた。それどころかその『神域』を破壊するなど・・・あなたは人の身をした神なのではございませんか?」


 確かにどうやらおれには〈神気〉やらが宿っているらしい。

 大神官は神殿内の〈神気〉を込めようとして誤って、おれの中の〈神気〉も使って結界を造ってしまったようだ。

 

(いや、だからと言って神は飛躍しすぎだろう)


「有史以来神と直に対面した者は数少ない。まして〈神気〉を宿すものなど神殿の記録にはありません」


(いや、おれが神だったらこんなに不自由してないだろ。最近周りになされるがままだぞ。この大神官、ことを大げさにしてうやむやにしようとしてるんじゃないか?)


「ボスコーン家の悪事を裁いた・・・」

「もしかして〈コンチネンタル・ワン〉が従っているのって・・・」

「〈レッド・ハンズ〉もよ。あの気高いエルフが人に従うはずないって思ってたけど・・・」

「私はベルグリッド駐屯騎士を数日で魔道騎士にしたって・・・」

「5歳まで平民だったのにその時には全属性魔法が使えたらしいわ・・・」


(おいおい何信じてるんだこの娘たちは・・・だから違うって・・・)


「入隊試験の時その場でマイヤ隊長の傷を治したわ。跡形もなく・・・」


(オリヴィア、それは口止めされてたはずだろ? やっぱり話しちゃったよ。いや、今更手を口で塞いでも遅いんだよ。なんだその しまった みたいな顔は・・・天然か!!)


「皆憶測で結論を決めてはいけません。ロイド様・・あ、いえロイド卿がいかなる存在かを証明することなど我々にはできません。まぁ神でなかったらなんだという気がしますが・・・」


(いや、あなたも信じるなよ、マイヤ卿! あなたがブレると困るよ! 今ロイド様って言いかけたよね? やめてね? 違うから!)


「みんな、勝手に話してもしょうがないわ。ここはロイドちゃんに話してもらいましょう。それがなんであれ私は信じるわ」


 グワァ・・・


(さすが姫様だ・・・まだ小さいのに立派だ。なんか泣きそうだ)


「では正直に話します。私は神ではありません。ただの人です。どうして私に神気が宿っているのかは自分にもわかりません」 


「え?・・・・・・・・そう、じゃあ間を取って暫定〈聖人〉としましょう!」


(おい! 勝手に決めてるじゃないか!)


「おお、そうですな、すぐに大神官たちを招集し聖人認定の儀を・・・」


「ちょ、待ってください! その聖人になったら、私は神殿に所属しなければならないのでは? 王宮騎士の仕事があります。姫様の守護はどうするのですか!」


「え? 何をおっしゃいますか。聖人様を我々が縛ることなどございません。ただ我々を正しく導く指針となっていただき、この地を守護していただければ・・・そのためにご意見を賜りに伺うことがありましょうが煩わしいのでしたら、それも議題にて審議したうえで明確に取り決めを行います。できましたら求められた際にお言葉をいただきたくはありますが・・・」


 またこのパターンだ。おれの意志とは関係なく勝手に話が進んでいく。


(この調子でいくと成人(15歳)になるころに過労死するんじゃ・・・でも断ったら余計面倒なことになりそうだし・・・)


「それって保留にしていただけますか?」


「えぇ?」


「いや、だって自分自身なぜ神気が扱えるのかとか、そこにどんな意味があるのかとかわからないんで、自分が何らかの形で役目を帯びていると自覚できるようになったら、その時どうとでもしていただいて構いません。もちろんその前に神託があればお伝えします」


 それを聞いて考えこむ大神官。

 

(それで問題あるのか? 仕方ないもう一押し・・・)


「姫の護衛力向上のため、こちらで定期的に訓練をつけて下さいませんか? 剣も魔法も他とは違うのでしょう? 特に〈神聖級魔法〉は書物にもないのでここでしか学べませんし。そうすればとりあえず目の届くところであなた方も私を見極めることができるでしょう? とまぁこんな感じで他のお偉い方々を説得していただけば」


「なるほど! かしこまりました。それでしたら他の大神官たちも納得するでしょう。〈神聖級魔法〉に関してもロイド様でしたら伝授の許可が出ることでしょう」


(よかった・・・なんとか流されてずるずると行くことは避けられた)


〈神聖級魔法〉についても詳しく情報が手に入りそうだ。


「う〜ん、ではこれまで通りでいいのかしら?」


「そのようですね・・・しかし、これは思わぬ効果があったかもしれませんよ」


 マイヤ卿が言う意味はその後、帰りの馬車の中でわかった。


「あの・・・わたし、ポーラです。ポークメイド地方領主、ロットグラス家の娘。14歳です」

「え? ああよろしくお願いします。ロイドです。ベルグリッド伯、ギブソニアン家の息子。七歳です」

「はい知ってます!」

「ちょっと抜け駆けしないでよ!あの私・・・!」

「あなたたち! 先にお姉さまたちがあいさつするのよ! 遠慮しなさいよ!」

「ロイド様! 私は・・・」


 馬車の中でようやく自己紹介をされた。どうやら隊の一員として認められたようだ。おれが聖人候補なのがそんなにいいのか?


「違います! 私たちの命を救ってくださったし、あの剣神様に直に話されたんですよ! もうすごすぎです! 自分たちと比べてたのが恥ずかしいわ・・・」

「あんなはっきり大神官に自分の意見を言えるなんて、絶対私無理だもの。大神官って言ったら国王様で対等なくらいの人なのよ?」


 いやその国王様に対等な大神官に詰め寄ってたのは君たちだよね?


 身の潔白を証明しようとしたら聖人候補にされはしたが、当初の目的は達成できた・・・・のか?

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