第5話

ガチャ



扉が開いて、中から小学生の男の子が飛び出してきた。


「いってらっしゃい、気をつけてね!」



この声…



続いて、母親らしき女性が出てきた。





カンナだ。





大人になって、少し雰囲気は変わっているが

紛れもなく、カンナだった。

僕の隣のカンナは

まん丸な目をさらに丸く見開いて

両手で力一杯、口を押さえて、必死で声を殺していた。




「じゃ、俺も行ってくる」




え?あれ?なに?だれ?おれ?ぼく?




父親らしき男性…ぼ、僕だ…




僕は、腰が抜けてその場にへたり込んだ。




「いってらっしゃい」




!!!!!




カンナは間一髪で僕の口を両手でふさぎ

僕の声が漏れるのを防いでくれた。





ち、ちゅーした…





いってらっしゃいのちゅーした…





僕とカンナが…





気がつくと、辺りはまた暗くなっていて

あの空き家の前で僕らは座り込んでいた。

傍らに、あの鏡があった。




「…今の、なに?」





僕らは無言で自転車を押しながらコンビニへ戻った。

言いたいことはたくさんあるのに

言葉がうまく組み立てられない

だけど、僕はカンナに伝えなくちゃいけない。



「あの、カンナ。ぼ、僕たち、結婚しようじゃなくて、結婚してたよね?さっきじゃなくて、あの、ぼ、ぼくはすごく嬉しくて、ち、ちゅーとかは、いやあのキスはまたそのうちいや、だから、もう!とにかく、僕は、僕が羨ましかった‼ああなりたいと思ったんだ!」


ダメだ…


全部そのまま吐き出してしまった…


気持ちが伝わるどころか


意味がわからん。





「私も」



「え?」



「私もああなりたいと思った」







あれから10年

僕たちは結婚した。



あの空き家はまだあって、鏡も置いてある。


そして


「あの空き家の前の鏡に二人で映り込むと結ばれる」


という都市伝説が出来た。

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