おばあちゃんの知恵袋

 私の家の近くにはおばあちゃんの知恵袋と呼ばれているものがある。一般的にそうだとされているものとはだいぶ違うものだ。


 ほんの少し黒ずんだ薄ピンク、うねうねとした溝が無数に。そしてそれを大きく2つにを分ける溝には謎のがま口。おばあちゃんの知恵袋と読んでいるのはどう見ても人間の脳みそにがま口を付けたような物体である。

 いつからそこにあったのかは分からない。気がついたら、バス停の端の椅子の上にぽつんと置かれていた。


 おばあちゃんの知恵袋と呼ばれ始めたのは、これの用途が判明してからだった。

 がま口を開き、中に自身の悩みを書いた紙を入れておく。翌日、がま口を開くと紙は消えており、そのかわりに中からその悩みの解決方法が聞こえてくる。自分の祖母の声で聞こえてくるのだ。

 最初は誰もが怖がったが、「そもそも脳みその形のがま口という奇天烈なものなのだから、何が起こってもおかしくはないのかもしれない」と誰かが言い始めてからは、脳みそのがま口の中には絶えず紙が入っているようになった。


 やってはいけないこともいくつかある。誰が最初に言ったのかは分からないが、いつの間にかがま口を知る人たちの中では暗黙の了解と化していたことである。

 一つ目は「がま口の中に手を入れ続けてはならない」、二つ目は「がま口を開け続けてはならない」。それを実行したらどうなるかは誰も知らないが、やったら大変なことになるらしい。


 やったらどんなことが起こるのだろうか。おばあちゃんに聞けば教えてくれるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る