36.サイレン

1998年

2月2日わたしは13歳で22時47分

ラジオのボリュームを絞った

救急車のサイレンが遠ざかる

一層暗い静かでカーテンされたそとに

もう跡形もないサイレンを

静寂の奥に探して耳を澄ましていることをやめられない


2019年1月12日それは

もう失われた記憶12時34分

雑踏の喧騒の向こうに

わたしを探して澄ます耳があるだろう

12時37分その耳の在り処に

このここの存在や現在の地面が設えられている

救急車が鳴る

こうしている間にも12時42分

あの人はどこそこのなにいう町で

わたしが知らない景色に立っている

カーラジオから地方局の音が届けられる

12時46分

静寂がやってきて

その暗い奥

銘々のここをいましていると思いは馳せて

馳せた思いをわたしのここに連れ戻すと

あかあかと静寂の暗い奥で

人も景色もかたちへと光りはじめるらしかった

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