第87話・輝く魔法陣は誘う
私はその姿を探した。
玉座の左側を覆っていたカーテンの間から、アキが現れた。
足を引きずり、左手で脇腹を押さえていたが、その右手は紫色の光を放っている。
黒い皇帝を倒したことで皇太子のアキが新たな皇帝になったのだ。
そして、ここに、今、皇帝だけが出せる輝く魔方陣を出現させたのだ。
「憂理、長い間は出せない。皇帝だった男はここから自分の魔力だけをお前の世界に送り、影となって恨みを持つ者に魔法を使わせ楽しんでいた。そしてネイチュでは魔力に代わるものとして不死身の体を得ていた。私はそんなことはしない。お前はここからお前の世界へ戻るんだ」
私は思わず飛翔を見た。
アキは教える。
「この世界でのことは何もかも、なかったことにできる」
飛翔は魔方陣の中心で渦をまき元の世界へ誘(いざな)う黒いトンネルをじっと見つめる。
それから私を目でうながした。
「憂理」
私は息を大きくした。
飛翔から離れる。
「行かない。飛翔は行って。私、アキを愛している」
涙ぐむ。
「私、いくらでも飛翔を裏切る。そういうさだめに生まれた。……知らなかったけど」
「おれは憂理になら、何度、裏切られてもいい」
飛翔は目をそらさない。
私はまた下がる。
そのままよろめくようにして、口から血をあふれさせて悶絶している女の所へ行った。
そして見下すと、醜い女に触れることなく、魔力で魔方陣の中心に押しやった。
女は暴れながら黒い穴に飲み込まれていった。
魔方陣の光が少し弱くなった。
「お前も早く行け。魔方陣が消えかかっている」
アキがカーテンをつかみながら膝をつく。
不審に思い階段を駆け上がり、アキの前でかがむ。
「アキ、大丈夫?」
体を支えようとした手にべっとりと血がついた。
先の折れた黒い剣がその脇腹に深く刺さっていた。
私は悲鳴を上げ、それをアキから抜こうとした。
アキは手を払いのける。
「抜けば今すぐ死ぬ。魔方陣でお前を帰すまでは死ねない。早く魔方陣に入れ。私を長く苦しませたいのか」
「いや……」
首を横に振る。
「いや、アキ……。私、ここにいる。ネイチュにずっといる。だから死なないで……!」
アキは肩で息をする。
右手にやどる紫色の光が徐々に弱まる。
顔を上げ、飛翔に向かって叫んだ。
「憂理を連れて行け!」
だが、飛翔は応えず、動かなかった。
アキは望みを失い、高い場所を眺めた。
それ以上、魔力が持たなかった。
右手から紫色の光が去る。
輝く魔方陣も消えていった。
そしてもとの赤い床に戻った――。
〈続く〉
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