第85話・逃げる愛流を追う
愛流はベッドの影の壁に背中を押しつけ、床から腰を上げられずにいたが、私と目が合い、這うようにして奥の扉の隙間から逃げ出した。
それを追う。
愛流は幾重にもかけられた赤いカーテンをかき分け迷路のような通路を逃げゆく。
続いた私と共に、ふたたび玉座の間へ出た。
先ほど私がアキと歩かされた赤いカーペットの先の階段の上には、囲む者のいない無人の玉座があった。
玉座を頼りに二十メートル先を行く愛流は私たちがひざまずかされていた場所まで来ると、右側の廊下へ逃れようとした。
皇帝が死んだことで中心を失った宮殿の守備は崩壊し、私は体中に魔力が湧くのを感じた。
手首を合わせて腕を上げ、愛流の行き先に向け、手のひらを開く。
廊下の入り口は爆破されたように壊れた。
愛流はあわてふためき方向を左側に変える。そちらの上部も攻撃する。
樫の分厚い壁が巨大なこぶしで殴られたように割れ落ち、道を塞いだ。
愛流はへたり込む。
「憂理、本気じゃないよね。だって、私たち、クラスメイトじゃん」
私は愛流に十メートルまで迫った。
また腕を高く上げる。
「お前のせいで私は誰からも愛されない体になった……!」
“私は娼婦”と書かれた体で、誰に抱かれて愛を感じられるというのか――。
「私は愛されて抱かれることは生涯ない」
くやし涙がとめどなくあふれた。
それを見て愛流が笑った。
「あはは。私をコケにしたからだ。ざまあみろ!」
最後にあがいた。
私は憎しみと共に手首を合わせ、持ち上げた腕を愛流に向けようとした。
だが、何者かに後ろから腕を強くつかまれ、手首が離れた。
「やめるんだ、憂理」
声に体が震え、振り返った。
「……飛翔、どうして?」
言葉が続かない。
飛翔が私を見つめかえす。
つかんできた手も、冷えた私の手とは異なる温かなものだった。
<続く>
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