第82話・私は皇帝の寝室へ連れられる

 

 私は堅い木で出来た幅が四メートルほどの廊下へ連れ出される。


 宮殿の廊下にしては狭く、秘められた場所だと知った。


 人の高さ三人分はある高い天井からは真っ赤なカーテンが垂れ下がり、木の壁のほとんどを覆っている。そのわずかな壁に、小さなランプが明かりを添えている。


 魔力で逃れようとしたが、動揺が激しく集中させることができない。


 進み出た数名の貴族に囲まれる。

 ラセンは私が身につけていた豪華な指輪や腕輪を取り、側の者に渡す。

 金の指輪だけが指に残った。

 

 貴族のひとりがかわりに銀の手錠をかけてきた。

 異世界から来た魔力の持ち主は、それで魔力が使えなくなる。


 私はただの無力な娘に落とされた。

 皇帝のなぐさみものとして生きる存在として囚われた証だった。


 ラセンは、また私の腕を強くつかみ、


「陛下の寝室は四階にあったはずだ」


 と、貴族たちに確認した。


「先週からこのフロアと同じ二階に変わりました」


「……そちらへ連れよう」


 表情を変えなかった。


「こちらです」


 貴族たちが案内する先は赤いカーテンが廊下をふさいでおり、めくられてもめくられても続く道を進まされる。

 奥に行くにつれて灯りは乏しくなり闇が増していく。


 やがてカーテンが途絶え、その前にたどり着いた。


 入り口には幅と高さが三メートルある重い鉄の両扉がついている。貴族たちがそれを魔力で開ける。


 幅およそ十メートル、奥行きにいたっては十五メートルあるような広い寝室に、天蓋がついたキングサイズのベッドが置かれていた。


 大勢にかこませてそれを見物させているのだとわかり、恐怖のあまり立つのもやっとになった。

 抱えるラセンの手が腕に食い込む。


「天蓋は邪魔になる。外した方がいい」


 指図され、貴族たちが支柱ごとそれを外した。


 ラセンは手首のつながれた私を強く引き、大股でベッドへ向かう。

 

「シーツはマットを覆うものだけにしろ」


 体の上にするシーツをすべて取り除かせた。


 自らはそれに乗らぬよう、ベッドの頭側に回って私を抱き上げ乗せる。

 輪が大きく華奢な銀の鎖をベッドヘッドに空けられた専用の穴に通し、かけられた手錠の真ん中でくくりつけた。


 私は両腕を頭上に固定され、体を曲げることができなくなる。


 ラセンは貴族たちにたずねる。


「アキさまはこの妃が破瓜(はか)される場面を直接見たいのではないか? あるいは、私がこの娘が印したシーツを持ってアキさまに見せてもいい」


「陛下はすぐに来られるでしょう。たずねてください」


 彼らは去った。


 ラセンはひとつ息をついて腕組みをする。

 黙って到着を待っている。


 皇帝が来たら、私は初めての体を奪われる。


 刻みつけられた呪いの言葉も、気にせず、かえって喜ぶだろう。


 涙声で問う。


「ラセンは私の体に醜い傷があることを知っていた? 呪われた体だと知っていた? アキが私を抱いたら、アキを穢すことになると知っていた?」


 ラセンは一瞥(いちべつ)するが答えない。

 表が騒がしくなる。

 皇帝が来たのだとわかり、恐怖のあまりガクガクと震えた。


「お願いだから、助けて……」


「そういう訳にはいかない」


 突っぱねられた。


 分厚い扉が開かれ皇帝が入ってきた。

 アキと愛流も一緒だった。


「わしがお前を抱くのをみたいというので連れてきた。お前を抱いたあとで、この女と交わって見せたいという。それも面白い」


 私は滂沱の涙をながす。


 アキはこれから私に起こることを楽しむつもりでいる。


 アキを信じた自分を呪った。




<続く>

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