第73話・青いダイヤは教える

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 待ちかねたその日の深夜、シャビエルの宮殿の最上階にあるガラス張りの空間で、ラセンは夜空を見上げる。


 昼間は主に肉眼の右目で色のある世界を見たが、夜は義眼の左目を使い光の濃淡だけでものを見ていた。


 今は満月を見ている。


 アキは側で腕組みをして待っている。


「直接ここへ転移していいと言った」


「まもなく戻るはずです」


 言い終えたその時、サジンが転移してきた。


「遅くなり申し訳ありません」


 床に両足をつけ数歩あゆんで懐からまばゆい指輪を取り出し、両手にのせアキに見せた。


 プラチナの土台には一辺が一・五センチの四角にカットされた青いダイヤがむき出しでついている。


 アキが前回“処女の妃”とともに皇帝に謁見したとき、玉座へ上る階段に敷かれた赤いカーペットの下に忍ばせたものだった。


「サジン、よくやった」


 アキはねぎらい、指輪をつまんで見つめた。


「あの卑しい女の言った“満月の夜”はでたらめだったが、“満月の夜に皇帝の宮殿を守る魔力が弱まる”ことは事実だったな」


 月に背を向けたラセンと見交わす。


「これはお前が使え」


 サジンに指輪を渡した。


「次の満月の夜に、我々は宿願を果たす」


 アキは十年以上、胸にしまっていた思いをようやく言葉にする。


 側近ふたりの顔を見比べ、それぞれのもつ決意と覚悟を長く確認した。


「あとは“見えない神殿”だけだ」


 ラセンが報告する。


「あちらは順調です」


 サジンもアキから目をそらさない。


「次の満月までの時間を鍛錬に費やします」


 アキはふたりにうなずいた。


 すべてが終わったとき、感傷にふけることはできないはずだった。

 それを今行うことにした。


「サジン」


 名前を呼んで体を抱いた。


「お前を頼りにしている」


「必ずご期待に応えます」


 落ち着いた声のサジンの頬に口づけた。


 そして離すと、ラセンも抱いた。


「苦労をかけた。お前を親だと思っている」


「今はただアキさまに勝利を」


 ラセンの頬にも口づけた。


 そうやって“別れ”を惜しんだからには思い残すことはなかった。


 ただひとつの裏切りを除いては――。





 <続く>

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