第58話サジンは、オーヤとワイクを攻撃する

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 アキは新帝都を建設するために、町から追い出した人々を集めていた。


 ワイクとオーヤは情報をつかんで森に潜み、ほど近い道を連行される人々を待ち伏せる。


 そして、監視するアルマの役人を魔力で撃退し、人々を繋いでいた手錠を壊して森の中へ逃げ込ませた。


 その日は直接、働かされている都市へ行き、人々を救出するつもりでいた。


 囚われていた牢獄から開放し、森へ連れて行こうとしたそのとき、爆音とともに人々がいた場所は巨大な穴になった。


 上空に立って周囲を見張っていたオーヤは、五十メートル先に突然現れた水色の髪をショートにしたアルマの若者に気づいた。


 目を合わせてしまい、一瞬、背筋が凍ったが、光る目は使えないレベルの者だった。

 だが、男は自信に満ちあふれている。


 その男――サジンは蒼い瞳のまま口の前で手首の内側をひとつにする。

 高く上げるまでもない相手だと見きっていた。


 オーヤに向け、手のひらを開き、腕を伸ばした。

 先に手のひらを開くのがサジンの癖だった。


 オーヤは、くの字に盾を作り全身を守る。


 凄まじい光とともに衝撃が襲いかかり、後方にあった都市の尖塔が折れて崩れた。


「アキさまに盾突く者はゴミ以下だ」


 吐き捨てる。


 今度は額までこぶしを上げ手首を内にして合わせる。

 手のひらを押し開き、再度オーヤを攻撃した。


 オーヤはふたたび盾を作って防いだが、切り裂かれた空気が無数のカマイタチを呼び、体が傷だらけになった。


 ここまで魔力の強い相手に反撃するための時間が取れず、防戦一方になる。


 その時、後方からサジンを攻撃する者があらわれ、背中を守っていた盾が衝撃を受け体をよろめかせた。


「オーヤ、助太刀するぞ」

 地上にいたはずのワイクが空に上がっていた。


「本当は二対一ということはしたくなかったが」

「そんなこと言ってられるか」


 オーヤが魔力をこめ、反撃する。


 それをサジンは右手で受け止める。

 盾ではなく微弱な攻撃で弾いていた。


 ワイクも左後方からサジンを狙って手のひらを開く。


 そちらも左手を同様にした。


 体の向きをふたりの中間の角度に変え、両手をゆっくり並べる。


 魔力をつなげ、スッと手を引いた。


 戦いからサジンが抜け、オーヤとワイクは互いを攻撃することになった。


 大きなダメージを受け、ふたりとも流血した。


 サジンはドーム・スプリングの外で飛翔を攻撃したが、押し返され転移させられたことで腸(はらわた)が煮え返っていた。


 同じ手を食わないため、魔力がもつ磁力のような性質――引きあったり反発する力――を使い分ける戦い方をラセンから伝授されていた。


「まとめてとどめをさしてやる」


 頭上高くで手首を合わせ、魔力を集中させる。

 手のひらを開きながら片腕ずつオーヤとワイクに向けた。


 二本の強大な衝撃波が放たれた。


 ふたりは盾を作るが魔力が足りない。


 身を守る、くの字の盾が壊れかけた瞬間、それぞれの前に半球の結界が現れ、サジンの攻撃を受け流した。


「イシュリン」


 転移してきたイシュリンがサジンの十五メートル手前で空に立つ。

 腕を大きく開き、手の甲を見せた。


「これ以上、人々を苦しめることはやめてほしい」


 サジンは、魔力の通じない相手に歯がみする。


「アキさまは、お前ほど愚かではない……!」


 いまいましく言い残し、転移した。




 〈続く〉

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