第54話・飛翔はスプリングを飛び出す

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 オーヤがスプリングへ戻ったその夜、イシュリンは、神殿の一室へオーヤとともにワイクと飛翔も呼んだ。


 中央に置かれたランプの灯りを囲み、四人で車座になる。


 ワイクが口をきる。


「ここに来る前の憂理、いや“破壊の妃”は、帝都の向こうにある窪地の町に住んでいた人々を追い出し、町を破壊したという。皇帝に命じられ新しい帝都を作るために、人々を奴隷都市で働かせるためだと、逃れてきた者たちから聞いた」


「アキは新しい帝都の建設を命じられているのか」


 イシュリンは顔をくもらせる。


 ワイクが身を乗り出す。


「イシュリン、これ以上の犠牲を出さない為にもアキを倒すしかない。この世界でアキに対抗できるのはイシュリンだけだ。私もアキの側近を排除するために命を賭(と)す覚悟でいる。ここで戦わなくてはなんのためのレジスタンスなんだ!」


 ワイクにしては珍しく過激な発言だった。


 イシュリンは目を閉じ、首を振る。


「私はアキとは戦わない」


「なぜなんだ!?」


「おれもアキと戦おうとは思わない」


 オーヤはイシュリンに同意する。

 腕を組んで灯りが照らす床を見つめた。


「倒すのはアキではなく、アキを使っている皇帝だ」


 飛翔がオーヤに詰め寄る。


「アキを倒さなくては憂理は取り戻せない」


 オーヤは深く息を吐き、今度は高い天井へ視線を移した。


「憂理はもうアルマだ。ここには戻らない」


「何を言うんだ。あきらめる訳にはいかない。“破壊の妃”として、アキに利用されている。このままでは憂理までが人々の憎しみの的になる。いや、もうなりかかっている」


 語気を強める飛翔に顔を向ける。


「“破壊の妃”を止めさせるには皇帝を倒すしかない」


「憂理は、オーヤのところからアキに連れていかれたんだろう? 脅されているか、騙されているんだ」


「……違う」


 伏し目になる。


「飛翔」


 口ごもるオーヤに代わり、イシュリンが告げた。 


「憂理はアキを愛しているんだ」


「嘘だ! あれは形だけの結婚だ!」


 飛翔は立ち上がり、言葉を払いのける。


「嘘じゃない」


 オーヤが続ける。


「おれはふたりが口づけるのを見た」


 視線を受け、飛翔は衝動的に部屋を飛び出した。


「飛翔!」

「追うんじゃない、ワイク」


 腰を浮かせた彼をイシュリンは止める。


「イシュリン」

「飛翔にはひとりになる時間が必要なんだ」


 ワイクは飛翔の若さをおもんばかった。


「……わかった」


「私はアキと戦わない。だが、人々を守って救いたい。それに協力してほしい」


 イシュリンには、アキの行いを止めさせる計画があった。




<続く>

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