第55話・ノマドのドルグル

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 それから十日の間、飛翔は町を避け、転移を繰り返して野宿し、ネイチュをさまよった。


 誰かが落としたマントをかぶり、拾った水筒に清流で水を入れ、ドームで食べたことのあるトカゲを捕まえ、焼いて食べた。


 さらに人がいない場所を求め、限界にちかい高度五百メートルまで空へ上ったとき、岩でできた高さ三百メートルほどの鋭い山が遠くまで何重にも連なっているのが俯瞰できた。


 その隙間に隠れると決め、山あいに長く続く盆地へ降りた。


 山と山の幅は狭くせいぜい二百メートルだった。

 砂地に生えた草が枯れて膝丈まで伸びている。


 突如、乾いた風が野獣のうなり声を運んできた。


 体をそちらへ向ける。


 百五十メートルあまり離れた場所で、体長が三メートルはあるオスのライオンがこちらに背を向けて太い足で歩いている。


 そのすこし先には弓や槍で狩ろうと立ち向かう五、六人の男がいた。


 ひとりが近づくライオンに槍を投げたが傷を少しつけたにすぎず、逆に彼らに向かって走らせることになった。


 逃げようとする後ろから飛びかかるその間に飛翔は転移する。

 片手でライオンを払いのけ、魔力で倒した。


 尻もちをつき息を大きくしている近くの者に手を差し伸べる。

 男はそれをつかんで腰を上げた。


「助かった。ありがとう」


 汗を拭った男は三十歳前後にみえた。

 茶色の目をして、グレーがかった青色の髪を首の後ろでひとつに結んでいる。


 仲間たちが寄ってきた。


 男が名乗る。


「おれはドルグル」

「飛翔だ」


 答えると、ドルグルは体の土ぼこりを叩いて払う。 


「こんなところで魔力を使う者に出会うなんて」


 薄汚れた格好の飛翔を足先まで眺め、また目線を上げる。


「あんたはアルマなのか?」

「違う」


 飛翔は強く否定する。


「レジスタンスでもない。おれは、どちらにも属していない」


 ムキになると、ドルグルは笑った。


「おれたちと似ているな。おれたちはノマドだ。アルマにも町にもレジスタンスにも関わらない。家を持たず、テントで生活する。獣を狩ったり、果実を採ったりして移動しながら暮らしている。その日どうするかは朝起きた時に決めているんだ」


 得意げな様子から、その生き方に誇りを持っているとわかった。

 飛翔は彼らに惹かれた。


「さあ、今日はご馳走だ。このライオンを料理して食べるぞ」


 ドルグルは飛翔が倒したライオンに近づいた。


 仲間たちがサバイバルナイフでライオンの皮を腹からはいでいく。


 その血なまぐささもご馳走の匂いなのだ。


 ドルグルも同じ大きなナイフを腰につけていた鞘から取りだし、ライオンの腹を深く切る。


 いったん、ナイフをかたわらに置き、腕を突っ込んで黒い臓器を取り出した。


「新鮮な肝臓だ。精がつく一番いい部分だ。あんたが倒したライオンだし、魔力は体力と気力をとてもを使うと聞いた。食べてくれ」


 血まみれのそれを白い歯を見せ、飛翔に差し出す。


「……もらうよ」


 飛翔が受け取るとずっしりと重く温かかった。


 血のしたたるそれにかぶりついた。




<続く>

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