第44話・魔女を救う手

 

 宝石を脱ぎ捨てシャビエルの宮殿へ戻ると、ただちにアキは新しい帝都の候補地をいくつか選定する。


 皇帝が希望したような平野は農地に適しており、すでに多くの町が寄り添っていたが、上空から強い魔力を行使し、きれいにならした。


 ほかの町は新しい帝都の建設のため税を倍にし、従わない町にはラセンとサジンが向かった。

 人々を奴隷都市で働かせるために連れ去ると、戻れぬよう町を破壊した。


 憎悪がアキに集中した。


 それまでレジスタンスとは一切関わらなかった町でもアキと対立する彼らと関係を持つようになったことは調べるまでもなくわかった。


 私も“破壊の妃”に戻った。


 夕方、ひとりで破壊する予定の町の側へ転移した。


 町の人々が、荒れた窪地に黒髪をなびかせ立つまがまがしい私に気づいた。


 黒いシルクのドレスは喉元でV字のカットが入り、胸の下からウエストまでは同じ生地の細いベルトにクロスされて縛られている。


 透けた袖は肘下でしぼられ、スカート部分はフレアでくるぶしよりも長く、その裾から覗くかかとの高い靴は先がとがり血のように赤い。


 黒いレースを肩の後ろから巻いて胸元を覆い、左の胸には金のアルマの紋章をつけている。

 直径が五センチもあり皇太子の妃を示すものだった。


 左手の薬指には金の指輪をはめている。


 我ながら絵に描いたような“魔女”だと感心して笑った。


 魔力が少しでもあるものは鉄の手錠をつけて連れ去っており、魔力のない者たちだけが残っていた。


 出てきた人々は棍棒や農具を持って私を遠巻きにした。


 非力な彼らに冷たく首を振った。


 私には私の役割があると唇を噛み込むと腕を伸ばし手首を合わせる。


 目を閉じ、手のひらを開いた。


 ほとばしった強い光が人々を舐めるように一閃して円を描いたのがわかった。


 人々も町もその奥の森まで、何もかもめちゃめちゃになると思った。


 だが、静まっていた。


 風が頬をなでる。


 目を開けると、人々も町もすべて多面の盾で守られていた。


「憂理、ドームへ帰ろう」


 声をかけられ振り返ると、飛翔は穏やかな笑みを浮かべ、黒い私に手を差し伸べた。





<続く>

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