第34話・飛翔の計画

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 ムチで打つ音がここまで聞こえてきたので、飛翔は歯をかみしめて我慢した。


 今ここで鉄の手錠が効かない者であると看守たちに知られたら、働かされている人々を解放させるどころか逆に人質に取られてしまう。


 滅多に姿を現さないというマンゲールの市長に直接会って話すつもりだったが、いつここへ来るのか、どこにいるのかさえも突き止められずにいる。


 長く続いていたムチの音が止み、石牢の重い扉が開けられると、男が突き飛ばされて入れられ、また閉められた。


「ワイク!」


 床に倒れた彼はシャツをまくられてムチ打たれており、背中は赤紫色の筋がいくつも重なって腫れ上がっている。

 ところどころの皮膚が裂けて血にまみれていた。


 それでもワイクは笑みを浮かべた。


「……上手くいったぞ、飛翔。お前と違って私は、今、魔力が使えないので我慢できた」


 飛翔は悔し涙が出た。

 物を壊すことはできても人を癒すことはできない魔力が虚しかった。


 ワイクは痛みをこらえながら体を起こそうとしたが、さらなる激痛に動きを止められた。


「見回りに来た看守が細い窓から覗きこんだところで濡れた床に気づかれ湧き水がバレた。手錠を使って石に割れ目を入れ水を湧かせたのが誰なのか、犯人が見つからなければ全員がムチで打たれる。それならば私がやったと名乗り出た方が打たれる者がひとりですむ」


 顔に飛び散った自らの血がつき、顎から汗がしたたりおちる。


「ワイク、すまない……」


「それよりも、飛翔、情報がいくつか得られた。看守たちが話していることを聞いた。ひとつは……、ここで切り出された石は全て、マンゲールにほど近い大きくて深い湖に捨てられている」


「こんなに人々を苦しませて切り出させた石を、なぜ捨てるんだ」


「理由はわからん。それから、もうひとつ」


 顔を飛翔に向ける。


「人々に無益な労働をさせ苦しめている市長が、明日の午後、この石切り場へ顔を出す。必要最低限の数の看守以外は出迎えることになっている。“話し合い”を持つならその時だ。こんなことをする市長が聞き入れるとは思えないがな」


「ワイク、聞いてくれ。石切り場の先に鉄格子で阻まれた道がある。そこからマンゲールの外へ出られるようになっている。看守たちが市長に気を取られている間に、ワイクはそこから人々を外へ逃してくれ」


「わかった」


「今は看守に怪しまれないために鉄の手錠をはずせないが、その時がきたら、おれがお前の手錠を壊す」


 飛翔は握ったこぶしに目をやる。


「そして、何があろうとこの石切り場ごとマンゲールを破壊し、二度と人々を苦しめることができない場所にする」





<続く>

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