第33話・金の指輪を外してはいけない

 

 私は男から強くベッドに押しつけられ、身動きが取れない。


「魔力が効かないのなら、ただの非力な娘だと思い知った方がいい」


 アキと飛翔の顔が浮かんだ。唇を噛み、平然と見下す男をにらみ返した。


 男の手が私の首を指でなぞり、首からかけていた紐を切って金の指輪を親指と人さし指で持つ。


「それを返しなさい!」


 声を大きくすると、男はにやついていた表情を消した。


「いいかい、お妃さま。これを外すなんてもってのほかだ」


 よく見せてから私の左手の薬指にはめて戻した。

 押さえ込んでいた腕を離したので、起き上がった。


 男は首を振る。


「お妃さま、あなたが強大な魔力を操れるのも、その指輪が魔力を増幅させているからだ。十倍は違う」


 男は木の椅子を引き寄せ背もたれを向けると、またいで座った。


「それ、アキに聞いていなかったのか」


 指輪の秘密を教えつつ返してきたこと、アキを呼びすてにする関係から、ただ者ではないとわかった。


 男がもうひとつ椅子を引いて手をのせると指で合図したので、ベッドを降りてそちらにかけた。


 男は座った椅子の向きを私に変えた。


「私はアキをよく知る人に会いに来た。あなたがそうなの?」


 たずねると、男は少し安心した様子で灰色がかった青い目を伏せた。


「さあ、どうかな」


 はぐらかされたが、私は答えを聞くまでここから動かないつもりだった。


「お妃さまが、アキのことを知りたいと思っているのなら、それを知っている人物を知っている」


「だれ?」


 男は、とても寂しげな様子で椅子の背を抱えると、うなだれて右手をこぶしにして額にあてた。


「この町の真ん中に、今は使われなくなった古い神殿がある。そこで墓守をしている女がいるから彼女に聞いてみるといい」


 私は男の言うことを信じた。





 〈続く〉

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