第16話・もうとっくに地獄へ落ちている


 しばらく息をつまらせたあとで私は役割を思い出し、ドームの上空に転移した。


 先に転移していたラセンは、私が隣に立つと、ドームの輪郭を多面の盾で包み、それ以上、内部の者の浮遊や転移による脱出を許さなかった。


「燃焼しやすいようにドーム内の酸素の濃度を上げました」


 眉一つ動かさない。


 足下にある正方形の神殿とそれを渦巻きにした家々を見下した。


「かなりの熱風が来ます。しっかり防御してください」


「わかった」


 ラセンは手首を合わせた腕を頭上にする。


 長く集中した後で私が開けたドームの穴に向け、手のひらを開いた。


 体の幅よりも太く強烈な光が噴射された。


 ありったけの魔力を注ぎ続ける。


 それが、尽きることはなかった。


 ドームの内部で炎が走り回り、あっという間に隅々まで燃え広がった。


 ドームを包む薄い膜は熱炎にあぶられて真っ赤になり膨張する。


 そして、我慢しかねたようにドン!と音を立て、ドームは爆発した。


 すさまじい爆風が吹き荒れ、熱とともに黒煙が巻き上げられた。


 私は多面の盾で身を包みながら、体を舐めようと伸び上がる炎を見つめた。


 燃えるほどに心が冷えた。


 倍ほど歳の違うラセンに目を向けた。


 大股で立つ長身は熱風にあおられることもなく、額の上から後頭部にかけて撫でつけられた鈍色の髪が乱れることもなかった。


 オレンジ色の瞳はにごり、ドームだった火の海から目をそらさない。


「その子供をどうするつもりですか?」


 私はカヤを抱えている。


「動脈を押さえて止血した。治療すれば治る」


「贖罪ですか?」


「まさか……」


 自嘲して首を振る。


「もうとっくに地獄へ落ちている」


 ラセンはそれ以上、話さず、少し下がって私を仰ぎ見た。





 〈続く〉

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